明治〜昭和初期の『読売新聞』の婦人欄には、いろいろ着物関係の記事が載っています。時間が無くて、なかなかご紹介できないのですが、興味深そうなものから、順次、ご紹介しようと思います。
なお原文の仮名遣いや漢字、あるいは句読点や改行は、読みやすいように一部直してあります。
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『読売新聞』大正15年(1926)12月4日 朝刊 婦人欄
銘仙の見わけ方
まがひ物が多いから買ふ時に注意
東京では木綿物の時代が去って銘仙とモスリン全盛の時代になりました。それにつれて安い銘仙、安いモスリンがたくさん製造されます。年末が近づくと銘仙やモスリンはかなり贈答品として用いられるが、品物を見分けして贈らないと飛んだ恥をかく事があります。
銘仙を見分けるには---まづ悪い銘仙といふのは拵(こしら)え方が違うのです。普通の銘仙は質は悪くとも一本糸を織るのですが、悪いのは織糸を用いないのです。つまり名前だけの銘仙です。そして素人見には普通の銘仙と見分けがつかない程、巧に出来ています。だからそれをも普通の一本糸の銘仙と信じ込んでいる向がたくさんあります。値からいっても一本糸のものと余り違はず、安い物は五、六円、高い物で十二、三円まであります。
これを見わけるにはどんな物をどんな風に用いたものかよく調べるのです。元来この銘仙は絹糸の屑や絹地のきれ地を寄せ集め真白に漂白した上、原形をすっかり崩し綿のようにして紡績機械で糸のように仕上げたものなのです。だから一本糸を用いたものと全く拵え方が違ひ、非常に早く擦り切れたり裂け目を生じたりします。
で、買う時には先づその反物の端から糸を二、三本引き抜いて見ることです。一本糸を用いたものは糸に細い、太いがなく、おまけに両方の指で引張るとピンと勢いよくちぎれますが、屑糸物は細さと太さが不揃いで、引張ると細い部分がスーツと綿をいじるような具合に切れてしまいます。これはだれでも出来る方法で昔の年寄なぞも絹糸とまがひ物を見わけるによく用い、呉服屋などではやはり其の方法でやっているそうです。手触りや縞や絣で見わける事のできない場合にはこの方法でやるのが一番です。
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まず、大正末期(1920年代前半)という時代が、一般女性の衣服が木綿物から銘仙・モスリン(梳毛糸を用いた平織の織物)全盛に移行した時期だったことがわかります。ただし「東京では」とあるように、絹織物の普及にかなりの地域差があったこともわかります。
また、この記事から、銘仙が流行すると、ほぼ同時に粗悪品が表れ、良品と粗悪品の区別が大きな関心事になったこと、粗悪品とされる銘仙が「一本糸(=生糸)」ではなく「紡績絹糸」(屑糸から工業的に作った絹糸)を素材にしていたことがわかります。
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