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1. 「あやしい着物」とは

(1)艶やかなる銘仙
(2)あやしい着物
1. あやしい着物とは
2. お里が知れない子
3. こういうのは可愛くない
(3)銘仙雑考
(4)ちょっとあやしいきもの論

「あやしい着物」とは、わかりやすく言えば、「これ本物? なんか怪しいわね」という類の着物のことです。

具体的に言うと、
「黄八丈ってオークションに出てたから買ったんけど、なんか変?」とか
「お店の人は大島って言うんだけど、微妙に違うのよね」とか
「結城ってことで買ったのだけど、う〜む・・・」とかいうものです。

アンティークもの、リサイクルものを愛用されてる皆さんは、それぞれ似たようなご経験があるのではないでしょうか。
 
私の場合、そんな「あやしい着物」に関心をもったのは、物からではなく、文献資料からでした。銘仙のことを調べていた時に、昭和30年代の秩父や伊勢崎の生産表の中に、「銘仙」と並んで「大島」という項目があったのです。「なんで、秩父や伊勢崎で『大島』を作ってるのだろう?」と思って調べてみると、秩父の場合、なんと「みやま(深山)大島」というブランドまであったことがわかりました。
 
「みやま大島」、もちろん、現在、奄美大島と鹿児島市で、手くくりして植物染料で染めた糸で織っている「大島紬」(本場奄美大島紬と本場大島紬)ではなく、人工染料で染めて機械織りした「大島風」の織物なのですが。「みやま大島」として売ってるのですから「偽物」ではないのでしょうけど、コピー商品であることには間違いありません。
 
しかも、その実物と思われる反物を「ちちぶ銘仙館」の展示室の片隅で見つけてしまったのです。「白大島」風で、絣の感じといい色味といい手触りといい、本場の大島紬にとてもよく似てました。反物の状態だったので、両耳(サイド)の部分に白い染め残しがあるのが確認できました。型染めの場合、型枠の部分が白く染め残ってしまうので、この「白大島」風の反物は、たぶん経糸を整えたところで仮織して型染する「解し銘仙」の技法の応用で作られたのではないかなぁ、と想像しました。もし反物でなく着物になっていたら、染め残し部分は隠れてしまうので、本場の大島紬とはっきり見分けが付けられるか、私には自信がありません。
 
染織効率の高い人工染料で、手間がかかる糸くくりではなく仮織型染、そして手機ではなく自動機械織機ですから、生産効率もコストも、本物とは比較になりません。その分、大量に安く市場に供給できたはずです。
 
昭和初期、あるいは昭和30年代には、何度か大島紬ブームがありました。よく考えてみれば、気が付くことなのですけど、大島紬の生産量、しかも増産がきかない状態で、こうしたブーム需要をまかなえるはずがないのです。逆に言えば、ブーム需要のかなりの部分を満たしていたのは、伊勢崎や秩父などで作られた「大島紬風」のコピー商品だったのではないでしょうか。
 
当時の庶民は、皆、だまされて買っていたのではなく(だまされた人もいたでしょうけど)、安い「大島紬風」の反物、安い「黄八丈風」の反物という感じで、お手軽に買って愛用してたのだと思います。本物の大島紬や黄八丈は、当時も今と同じように高価で、庶民が容易に手の届く値段じゃありませんでしたから。
 
現在でも生産されている「村山大島」などは、ある意味では、そうした「大島風」のコピー商品の生き残りなのです。こうしたコピー商品は、紬に限らず、「(西陣)お召」がブームになれば、それと良く似た「多摩結城」(八王子)が出現するとか、いろいろあったようです。
 
そして、40年以上の時が経ち・・・。そうしたコピー商品は、現在、アンティーク市場やリサイクル市場、あるいはネット・オークションなどに、まだまだたくさん出回っているはずなのです。
 

よほど目利きの古着屋さんじゃないとわからないような上出来のコピーもあります。まして、そうしたコピー商品の存在が頭に入ってない業者さんだったら、見分けはつかないでしょう。
 
誤解のないように言っておきますが、私は、こうした「あやしい着物」に「だまされないよう気を付けましょう」と言っているのではなく、逆になんとなく親しみというか、面白味を感じてしまうのです。たぶん、私自身が「本物」の女ではなく「Fake(贋物)」だからでしょう。
 
いつか、こうした「あやしい着物」たち、正統的な着物文化論では絶対に論じられない、でも庶民には愛された、今は存在すら忘れられつつあるコピー着物、について文章をまとめてみたいと思っています。
 
そこで、皆さんにお願いなのですが、「なんか、怪しい」と思うお着物をお持ちの方がいらっしゃいましたら、ぜひ情報をお寄せください。どこで手に入れられたか、どんな触れ込みだったか、どんな風に怪しいかを教えてくだだけたら幸いです。画像も送っていただけたら、とてもありがたいです。

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