「あやしい着物」とは、わかりやすく言えば、「これ本物?
なんか怪しいわね」という類の着物のことです。
具体的に言うと、
「黄八丈ってオークションに出てたから買ったんけど、なんか変?」とか
「お店の人は大島って言うんだけど、微妙に違うのよね」とか
「結城ってことで買ったのだけど、う〜む・・・」とかいうものです。
アンティークもの、リサイクルものを愛用されてる皆さんは、それぞれ似たようなご経験があるのではないでしょうか。
私の場合、そんな「あやしい着物」に関心をもったのは、物からではなく、文献資料からでした。銘仙のことを調べていた時に、昭和30年代の秩父や伊勢崎の生産表の中に、「銘仙」と並んで「大島」という項目があったのです。「なんで、秩父や伊勢崎で『大島』を作ってるのだろう?」と思って調べてみると、秩父の場合、なんと「みやま(深山)大島」というブランドまであったことがわかりました。
「みやま大島」、もちろん、現在、奄美大島と鹿児島市で、手くくりして植物染料で染めた糸で織っている「大島紬」(本場奄美大島紬と本場大島紬)ではなく、人工染料で染めて機械織りした「大島風」の織物なのですが。「みやま大島」として売ってるのですから「偽物」ではないのでしょうけど、コピー商品であることには間違いありません。
しかも、その実物と思われる反物を「ちちぶ銘仙館」の展示室の片隅で見つけてしまったのです。「白大島」風で、絣の感じといい色味といい手触りといい、本場の大島紬にとてもよく似てました。反物の状態だったので、両耳(サイド)の部分に白い染め残しがあるのが確認できました。型染めの場合、型枠の部分が白く染め残ってしまうので、この「白大島」風の反物は、たぶん経糸を整えたところで仮織して型染する「解し銘仙」の技法の応用で作られたのではないかなぁ、と想像しました。もし反物でなく着物になっていたら、染め残し部分は隠れてしまうので、本場の大島紬とはっきり見分けが付けられるか、私には自信がありません。
染織効率の高い人工染料で、手間がかかる糸くくりではなく仮織型染、そして手機ではなく自動機械織機ですから、生産効率もコストも、本物とは比較になりません。その分、大量に安く市場に供給できたはずです。
昭和初期、あるいは昭和30年代には、何度か大島紬ブームがありました。よく考えてみれば、気が付くことなのですけど、大島紬の生産量、しかも増産がきかない状態で、こうしたブーム需要をまかなえるはずがないのです。逆に言えば、ブーム需要のかなりの部分を満たしていたのは、伊勢崎や秩父などで作られた「大島紬風」のコピー商品だったのではないでしょうか。
当時の庶民は、皆、だまされて買っていたのではなく(だまされた人もいたでしょうけど)、安い「大島紬風」の反物、安い「黄八丈風」の反物という感じで、お手軽に買って愛用してたのだと思います。本物の大島紬や黄八丈は、当時も今と同じように高価で、庶民が容易に手の届く値段じゃありませんでしたから。
現在でも生産されている「村山大島」などは、ある意味では、そうした「大島風」のコピー商品の生き残りなのです。こうしたコピー商品は、紬に限らず、「(西陣)お召」がブームになれば、それと良く似た「多摩結城」(八王子)が出現するとか、いろいろあったようです。
そして、40年以上の時が経ち・・・。そうしたコピー商品は、現在、アンティーク市場やリサイクル市場、あるいはネット・オークションなどに、まだまだたくさん出回っているはずなのです。
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