【第02回】 女装は「遊び」じゃなくっちゃ

2001. 12

皆さん、女装ライフを楽しんでますか? 前号では、どうやって女装するかをお話しました。今回は、女装してどうするか、のお話です。
 
昨年の末のことです。私がお世話になっている女装スナックに一人の青年がやって
来て、ママに「女装で働かせて欲しい」と頼みました。詳しく話を聞くと、以前から女として生きたいと思い、脱毛エステに通い、それが一段落したので女装して働きたい、という話なのです。つまり、実際の女装経験はゼロで、女装スナックのホステスとして働きたいと言うのです。
 
「え〜っ! 信じられな〜い」 私はこの話を聞いて唖然としてしまいました。女装で働く、女装を仕事にする、女装でお金を稼ぐということの感覚が、私の時代とはぜんぜん違ってしまったことを思い知らされたからでした。
 
たしかに女装するにはお金がかかります。「愛人1人持つのと同じ」と昔から女装世界で言われてきたのは当たってます。女装で外出しようと思えば、洋服、靴、バッグ、コートなど、季節季節のファッションは最低限必要ですし、それもそれぞれ2パターン、3パターンは欲しくなるし、流行を追ったり、ブランドにこだわったりすると、もうたいへんです。化粧品、髪の手入れ(美容院)、身体の手入れ(エステや脱毛)などの経費も馬鹿になりません。女装スナックの飲み代にしても、毎週末、何軒かハシゴをすれば、たちまち月に数万円になってしまいます。女装を楽しみ、女装のレベルアップを図ろうとすれば、際限なくお金が出ていく仕組みになっているのです。女装で出て行くお金を考えたら、誰でも女装でお金が入って来たらいいな、と一度は考えるでしょう。
 
でも、お金がかかるのは女装を趣味とする以上、当然のことなのです。ゴルフにしても、釣りにしても、車に凝るにしても、鉄道模型にしても
、趣味に熱中すればお金がかかるのは当たり前です。お金をつぎ込む一方だからこそ趣味なのですから。違う考え方をすれば、趣味に没入することによって得られる楽しさをお金で買ってると言えるのです。
 
私も「エリザベス会館」時代は、女装はまったくの趣味で、お金は費やす一方でした。「エリザベス」を追われて新宿の街に流れて来たころの私も、お金を稼ぐことは一切しない、女装スナックを飲み歩いてお金を使う一方の「遊ぶだけの女」でした。何の責任も負うことなく、自由で、気ままな、リラックスした「もうひとりの私」の時間、私は女装という遊びにお金をつぎ込むことによって、そうした時間を買っていたのです。
 
それは、今にして思うと、私の人生で一番自由な時間だったのかもしれません。夜の新宿の街を気ままに歩き、ビルの谷間から大都会の空に浮かぶお月様を眺め、
ネオンの下を行き交う様々な人達を観察し、行きずりの男に声をかけられ、時にはつ
かの間の快楽にふける。女性としての別人格を設定して、男性としてのしがらみや仕事を一切忘れて、女としての自分を自由に遊ばせる、なんて贅沢な趣味でしょう。女装が男の「究極の遊び」と言われるのは、そういうことなのです。
 
そうしたせっかくの女装の楽しみを捨てて、なんで最初に紹介した彼のように女装で働こうなんて思うのでしょう。そもそも女装で働くということの意味がわかっているのでしょうか。
 
現代の日本で女装で働ける代表的な業種としては、飲食接客業
ホステス)、ショー・ビジネスダンサー)、セックス・ワーク(風俗嬢)があげられます。ここでは一番お手軽そうに見えるホステスについて考えてみましょう。
 
ホステスの仕事は、お客さんが楽しく飲める時間と場を演出することです。そうした雰囲気を作り、座持ちと気配りをして、お客さんに「ああ、今夜は楽しかった。また来るよ」と思わせることのできるのが有能なホステスなのです。さらに、外からお客を呼べる集客力があったり、お店の雰囲気が華やぐようなオーラ(存在感)があるホステスは

カウンターの中に入るということは「お仕事」するということです

「お店の宝」になります。逆に一人で座持ちができないホステスはヘルプとしてしか使えませんし、ヘルプもできないならグラス洗いですけど、それはもうホステスではありません。世の中では、ホステスは、きれいに装ってお客さんの側に座っていればいい気楽な職業というイメージがありますけども、とんでもありません。高いレベルの精神労働であり、同時に肉体労働なのです。
 
ホステスの武器は会話です。相手の話をたくみに誘い出す聞き上手、お客が興味を持ちそうな話題を提供する話し上手、相手の気持ちを推し量りながら機知に富んだやり取りを交わす対話上手。話術とそれを支える頭の回転がなければいけません。
もちろん容姿は重要な付加価値です。女らしい、美しい、色気がある、容姿の魅力はお客を引き付ける大事な要素ですけど、容姿だけではいくら美人でもホステスは勤まりません。つまり、女装しただけでは、どんなに美形でもホステスにはなれないということです。仕事ということになれば、お客を呼び、店の売上に貢献できるだけのホステスとしての技量が求められるのです。
 
さて、女装で働いてみよう、ホステスくらい簡単にできるだろう、と思っている貴女、いかがです。できますか? あるいは少し修業を積めばできるようになると思いますか? しかも、一日だけとか、一人のお客相手だけじゃなく、ほとんど毎晩、誰にでもですよ。もちろん、ホステスの仕事を理解した上で、今はできないけど今にできるようになってやる、というチャレンジ精神は大事だと思います。でも、ホステスの仕事を誤解してたり、自分にその能力がないと思うのに、それを仕事にしてお給料(時給)をいただくのは欺瞞だと思うのです。
 
私にはできるとは思えませんでした。だから私は、週1〜2回ペースで女装スナックの老舗「ジュネ」(03-3209-7491)のお手伝いホステスをした4年間も、ニューハーフ・パ

女装を仕事にしたいならそれなりの容姿も必要です(これは不合格例)

ブ「ミスティ」(03-5273-0805)のゲスト・スタッフで入っていた2年間も、一度として時給契約をしたことはありません。「ジュネ」時代などは、私の働きぶりをそれなりに認めてくださったお客さんがいたにもかかわらずです。まあ、ママの気分でお小遣いやタクシー代はもらうことはありましたけどね。
 
私が少し理想を追い過ぎ堅く考え過ぎるのかもしれません。現実には、お客にまともな挨拶も接待もできない、大学の学園祭の模擬店に毛が生えたような女装スナックもあるようですから。そういう店なら、口べただろうが、無愛想だろうが、おツムの回
転が悪かろうが、取りあえず口紅塗ってスカート履いてれば「ホステスで〜す」と言えるかもしれないし、そんな店にお金を払うアホな男もいるのですから。
 
最近は、世の中の大不況のせいで、昼間の仕事をリストラされてしまって、趣味だった女装を仕事にしようと思う人が、チラホラ目につくようになりました。まあ、30歳前で才能(容姿と頭脳)にある程度恵まれている人なら、精進すれば、ホステスに転身も可能でしょうけども、それ以上の年齢だったらまず成功はおぼつかないです。お客さんだって、見るからに中年の新人ホステス相手じゃあ、飲めるお酒も飲めなくなってしまいます。なんて言って、私がお手伝いホステスを始めたのは40歳でしたけどね(店では一回りサバ読んで28歳って言ってました)。
 
それにホステスなんて一生できるものじゃあありません。純女(生まれつきの女性)に比べれば、見かけの加齢が平均的に遅い女装者でも、せいぜい40歳まででしょう。この厳しいご時勢、自分の店を持ってママや

それよりネオンの街で自由に遊んだり、

オーナーになれるのは、ほんの一握りの人だけです。それにしたって飲食接客業の経営環境はシビアです。今は、ニューハーフや女装ホステスで仕事ができても、じゃあ40歳以降の人生、どうします?
 
そもそも一流のニューハーフ系のお店ならともかく、女装スナックのホステスの時給なんて悲しくなるくらい安いものなのです。純女のホステスの半分から3分の1と思ってください。新人だったら1000円、普通で1200円、けっこう売れっ子で1500円見当で
しょう。1日8時間月20日出勤として、月額16万、19万、24万です。深夜勤務の重労働、しかも衣装代は自前ということを考えれば、割に合わないと思いません?。失業してるよりマシと言われればそれまでですけど。ちなみに、牛丼の「松屋」の深夜勤の時給(新宿)は1240円だったと思います。それを考えたら、女装を仕事にしようなんて思わないで、地道に昼間の仕事の再就職先を見つけた方が賢いと思いますよ。
 
それでも、どうしてもホステスをしてみたかったら、「ジュネ」や「
びびあん」(03-3354-6514)や「アクトレス」(03-3352-0901)のような会員制度のある女装スナックの会員になって、「ホステスごっご」をすればいいと思います。お店のスタッフの許可をとって、自分の席の隣や向かいの男性客の話相手やドリンクのお世話をしてみましょう。やってみればわかることですけど、それだけでもなかなか大変なことだと思います。そうやってだんだんホステスらしく振る舞えるようになり、数人がのお客さんの座持ちできるように

気楽にのんびりお酒をのんだりした方が楽しいでしょう

なれば、「ホステスごっご」としては大成功です。でも、調子に乗って「時給ください」なんて言っては行けません。あくまでも「ごっこ」「遊び」なのですからね。
 
ということで、女装で働こう、女装を仕事にしよう、なんて思わない方がいいのです。女装はあくまでも「遊び」、趣味であるからこそ楽しいのです。責任を背負うこともなく、お店の客の入りを心配することもなく、気が向けばフラっと夜の街を散歩できる自由、それを大事にしてください。いつの間にか、女装が仕事になってしまった私が言ってるのだから、まちがいないのですよ。
女装情報データベース