【第52回】九州別府の変身旅館「二幸荘」

2006. 8

舞妓に変身

舞妓に変身

2006年3月19日、博多湾を一望する福岡国際会議場で第8回GID(性同一性障害)研究会が開催されました。GID研究会は、年1回開催される性同一性障害の専門家(主に医師)と当事者が参加する学会で、私は勉強のために1999年の第1回から参加しています。今年は「日本最初の『性転換手術』について」という研究報告をしてきましたが、毎度のことながら、まじめ一方の雰囲気で(学会なので当たり前なのですが)、どうも楽しくありません。
 
そこで福岡から高速バスに乗って、大分県の別府まで往復してきました。お目当ては、別府浜脇温泉の変身旅館「二幸荘」。この旅館、外観はやや古びたごく普通の旅館ですが、九州ローカルではしばしばマスコミにも取り上げられる有名旅館です。人気のポイントは、花魁、舞妓、芸者など女装、男装200種類以上の本格的な変身が楽しめること。
 
京都あたりで舞妓変身をすれば、変身料金だけで、15000〜20000円かかりますから、泊まって食事して温泉に入って変身して11000円というのがいかに破格の料金かよくわかります。東京からだと別府までの交通費が少々難ですが、今回の私のように九州出張の折りに足を伸ばせば、なんとかなります。

私は今回が3度目の訪問。2003年の最初の時に花魁(大夫)、2004年の2度目が芸者、そして今回は舞妓と花魁(紫天神)をやってきました。
 
料金は安くても扮装は本格的で、化粧は、若い頃、芝居役者を志したオーナー(近馨氏)が手ずから白塗りの本化粧をしてくれます。着付けは、元旅役者の年配の女性、写真撮影のポーズ付けは日本舞踊の先生という具合でまさに至れり尽くせりです。
 
用意されている衣装も多彩ですが、オーナーのご自慢は鬘。種類が豊富なのはもちろん、大きめのものが用意されているのが、女装の人にはありがたいです。

京島原の花魁、紫天神です

京島原の花魁、紫天神です

 
変身と撮影が終われば、別府湾の海の幸をふんだんに使った夕食が待っています。その後は、24時間入れる温泉でのんびり身体を伸ばすことができます。
 
ともかく、女装者に限らず、一般の女性も男性も、変身好きにはまさに極楽。一度行ったら「次は何に変身しようか」と必ずまた行きたくなるお宿で、2、3日、人によっては1週間も連泊して毎日変身を楽しむ常連さんもいるそうです。皆さんもぜひ一度、お試しください。
 
ということで、私の舞妓姿、いかがでしょうか。年齢をまったく無視した暴挙の割りにはまずまずの出来ではないかと自惚れていたら、仲良しの友人の女性に「姐さんの舞妓、色気有り過ぎ」と指摘されてしまいました。
 
たしかに舞妓は「おぼこい」(うぶで子供っぽい)のがウリ。それに対して私の舞妓は「男の人のことも、世の中のからくりも、もうみんな知っちゃってるもんね」という顔をしてるのだそうです。そう言われてみれば、そうかも・・・・。やっぱり私には、男を引きつけとろかす手練手管に長けた花魁の方が似合ってるのでしょうか?。
 
 
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ところで、私が幹事をつとめる「戦後日本〈トランスジェンダー〉社会史研究会」の7年間の研究成果『戦後日本女装・同性愛研究』が出版されました。
 
矢島正見中央大学教授らと「研究会」を立ち上げたのが1999年2月。「研究会」の

舞妓に変身

矢島正見編著
『戦後日本女装・同性愛研究』
2006年3月 中央大学出版部
7560円(税込)

歩みは、性社会史研究者としての私の歩みにほとんど重なります。分厚い本を手にして、7年間の人との出会いと苦労を思い出し、感慨深いものがありました。
 
内容は、女装者2人と女装者愛好男性1人のロング・インタビューをまとめたライフヒストリーが3本、それに女装と同性愛に関する考察・論文が14本、全617頁というボリュームです。
 
戦後の女装世界を生き抜いた先輩たちの足跡をたどり、女装世界の歴史を記録するとともに、女装という行為を学問的にとらえ直そうという試みで、私は3つのインタビューに関わり、考察2本、論文3本、手記1本を執筆しました。
 
とりわけ、女装世界の大御所的存在である松葉ゆかりさん、美島弥生さんのお二方、新宿女装世界を女装者愛好男性の立場で30年見続けてきたA氏の「語り」は、記録として貴重なだけでなく、それぞれの半生を記した読み物としても、とてもおもしろいものに仕上がったと自負しています。
 
学術書なので、お値段が高いのが申し訳ないのですが、私にメールいただければ、若干(15%程度)お安くできるかと思います。ご興味のお有りの方は、メールでご連絡くださいませ。