【第51回】男湯? 女湯?

2006. 4

夕暮れの湖畔。着物は赤地に黄色の細い格子が入った大島紬。

夕暮れの湖畔

南天をめざして駆け上っていたオリオン座の輝きが少し鈍ってきたような気がする。薄明が近づいているのだろう。湖と水路で直結していて同じ水位になる露天風呂は、夏の大雨の余韻で1m20cmほどのほどの深さがある。底の砂利の間から染み出る熱いお湯でほてった身体を冷まそうと、深い湯船から露天風呂と湖を隔てる狭い岸にあがる。
 
誰もいないのをいいことに、乳房が低い円錐形に形良くふくらんだ白い裸身を湖畔の風にさらす。すぐ目の前には湖畔に人工の灯がほとんどない真っ黒な支笏湖の湖面が広がっている。聞こえるのは打ち寄せる小さな波の音だけ。東天がほのかに明るくなり、夜明けの気配を告げている。ピンクのタオルに包んだ長くなった髪がひんやりしてきた。私はふたたび暖かいお湯に身体を浸した。
  
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恒例となった仲間との「秋の旅行」、昨秋は北海道2泊3日の旅でした。初日は新千歳空港から支笏湖へ直行。湖と水位が同調する露天風呂で有名な湖畔の一軒宿「丸駒温泉旅館」に泊まり、お料理と湖の風光を楽しみました。

中日はサッポロビール博物館から北海道大学へと札幌市内を観光。紅葉を待つ北大のキャンパスは広くて緑が多く、こういう環境で学生時代を送ったら、勉学に励めるだろうし人格も歪まないだろうと思いました。夜はススキノで札幌のセクシュアル・マイノリティの方たちと交流。

最終日は小樽へ。三角市場で蟹をお土産に買い、小樽運河にたたずんで「訳ありで北国に流れてきた女」の気分にひたりました。最後はなぜか手宮の鉄道公園で

小樽運河にたたずむ訳ありの女。男から逃げてきたのか、それとも男を待っているのか・・・・。

小樽運河にたたずむ訳ありの女

ラッセル車の前で写真を撮ることに(仲間の「鉄ちゃん」の陰謀)。

不思議と今まで蝦夷地には縁がなく、人生云十年にして初の北海道でしたが、地元の仲間にいろいろお世話いただいたお陰で、楽しく充実した3日間でした。
 
ところで、一般の人(男女とも)から「旅行の時、お風呂はどっちに入るの?」と聞かれることがあります。「どっちに入ればいいと思います?」と尋ね返すと、たいがいの人は「う〜ん」と悩みます。「やっぱ男湯かな」と答えた男性に「じゃあ、いっしょに入ってくれますか?」と言うと、「それはちょっと・・・・」と動揺します(稀に 「えっ、ほんと」と嬉しそうにする男性もいますが)。

女性の場合もいろいろで、「やっぱり、女湯だと困るわよね」という女性がいるかと思うと、「順子さんとなら、いっしょに入っても平気だよ」と言う人もいます。実際、一昨年の別府温泉ではいっしょに入ってしまいました。
 
そんな具合で、私たちにとって、旅行の時のお風呂はいつも悩み(騒動)の種なのですが、温泉大好き、露天風呂ファンの私としては、お部屋の小さなお風呂では絶対に満足できません。
 
以前のフェイクレディの旅行(1995〜2000年)では、数を頼みに、ピンクの浴衣の女姿で男湯に突撃してました。このパターン、法律的にはまったく合法なのですが、社会的にはかなりの混乱を招きます。例えば「『女』が入ってきてゆっくりお湯につかれなかった」なんていう苦情が寄せられたり、仲間の見事な裸身に見とれたオジさんが洗い場でスッテンと転倒したり。
 
私たちとしては世の中に迷惑をかけるのは本意ではないし、また、私自身の意識として、この身体で大勢の男の人の中に混じって入るのがだんだん恥ずかしく なってきたこともあって、2002年以降の「秋の旅行」では、混浴露天風呂か貸し切り

丸駒温泉の貸し切り風呂「丸の湯」で。半露天の陶器の浴槽はちょうど良い湯加減

丸駒温泉の貸し切り風呂「丸の湯」で

風呂の設備があるお宿を選んで、男湯突撃は控えるようにしています。まあ、混浴でも脱衣所が男女別になっていると小さな騒動は起こりますから、問題が完全に解決したわけではありませんが、貸し切り風呂が増えたお陰で、以前よりは悩まなくなったのは確かです。

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この時間(朝の4時)なら誰もいないだろうと、男湯の前まで来たら、中からオジさんの歌声。「一対一は辛いなぁ、どうしようかなぁ」と迷っていたら、女湯の暖簾を分けて警備員さんが出てきました。彼は「警備員、定時巡回中」の札を外しながら、私に向かって「お待たせしました。巡回終わりました。安全ですのでどうぞ」と言います。えっ?と戸惑う私に「露天風呂へいらっしゃるのでしたら、通路のところどころが濡れてますから足元にご注意ください」と、とても丁寧なご案内。
 
そんなこと言われてもねぇ、困ってしまいます。さあ、順子、どうする・・・・・。