【第48回】新しい女装サロンのあり方

2005. 8

この3月、渋谷にオープンしたばかりの新しい女装サロン「bambina cafe」に行ってみました。
 
渋谷と言っても繁華街ではなく、周囲の環境は、もともと閑静な住宅街にアパレル系の会社や各種学校が入り込んだ場所で、むしろ代官山の延長という感じです。
 
マンションの一室ですので、けっして広いスペースではありませんが、明るい照明の機能的なメイクルーム、使い勝手がよさそうな撮影ルーム、そして居心地が良さそうなサロンから構成されています。
 
豪華ではありませんが、手作り感覚のセンスの良さが伝わってきました。ただ、サロンの窓際に据えられた太い材木を組んだ大きな門型の謎の構造物が気になります。
 
サロンのオーナーの月影麻優さんは、私より二世代くらい下の女装の方で、「エリザベス会館(東京浅草橋)」や新宿の女装スナックとはまったく無縁に独自の活動をしてこられた方だそうです。そして、もう一人のスタッフが、こことは別に「paradiso(パラディソ)」という個人SMサロンを運営している日向可憐(ひなた かれ

「bambina cafe」で。月影さん(中央)、日向さん(右)と談笑する私。

「月影さん(中央)、日向さん(右)と談笑する私」

ん)さん。長い髪の小柄な「お嬢さま」タイプの女性で、「Sの女王様」というイメージには程遠いのですが、人は見掛けで判断してはいけません。
 
サロンの貸衣装は、収納スペースの関係でまだ豊富とはいえませんが、今、若い女装者の間で人気のメイドファッション、ゴスロリ系、そしてボンデージ系と、しっかりツボを押さえているように思いました。
 
備品をみせてもらったついでに、可憐さんが使っている縄を見せていただきました。縄の処理を見れば、女王様のレベルはだいたい推測できるのですが(なぜ私はそんな推測ができるのでしょう?)、人肌の脂をたっぷり吸い込んで薄い黒茶色に染まったケバがほとんど感じられない滑らかなロープは、この縄の主が「本物」であることを語っていました。
 
さて、サロンの謎の構造物ですが、建物の壁や天井とはまったく独立した構造で、10数cm角の硬い木材をがっちり組んであり、約100kgほどの重量物を吊り下げられるくらいの強度は十分にありそうです。訳知りの方にはすでにお解りの通りこの構造物は人を吊り下げるためのもの。つまり、このサロンは、テーブルなどを片づければ、たちまち可憐女王様の吊責めプレイルームに変身するらしいのです。なかなか楽しいシステムだなぁ、と思いました。
 
ところで、私がこの「bambina cafe」に、今までの女装クラブに無い、新しいものを感じたのは、女装サロン「bambina cafe」、出張型女装フォトサロン「bambina」、SMプレイの「paradiso」という3つの営業形態をリンクしたスタイルにでした。それは、インターネットでいう「相互リンク」をイメージさせます。
 
こうした形は、インターネット、Eメール、デジタルカメラという新しい「道具」を当たり前のように使いこなす月影さんの世代には、取りたてて新規な発想ではないのかもしれません。しかし、今までの女装クラブの経営を担ってきた旧世代の人たち(私を含む)には、それは当たり前のことでありません。理屈ではインターネットの利便性を解っていっても、根本的な部分では発想が転換できないのです。例えば、女装者の嗜好にSMが根強くあることはよくわかっていても、SMサロンとしっかり提携関係をもつような発想はなかなか生まれなかったのです。
 
考えてみれば、女装クラブの老舗「エリザベス会館」にしろ新宿の女装スナックにしろ、25年以上の歴史をもっています。節目節目でマイナーチェンジはしてきても、基本的には4半世紀前のシステムなのです。もうそろそろ根本的に新しいシステムが出てきてもいい頃なのではないでしょうか。
 
「bambina cafe」は、まだ船出したばかりで、正直、海のものとも山のものとも知れないところはありますが、私はそこに新しい可能性のようなものを確かに感じました。お二人のこれからの健闘を祈りたいと思います。

「大お花見」(上野公園)の主催者ふたり。

「大お花見」の主催者ふたり」

 
 
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私の近況ですが、4月2日、恒例となった「大お花見」(USAと共催)上野公園で開催しました。桜はまだ三分咲きでしたけども41名の方が集まり、楽しい一時を過ごしました。 花の下で次第に夕闇が濃くなる空を見上げていると、いつも場所取りをしてくれたサスケさんの顔が思い浮かびます。入院先の病院から「姐さん、今年の花見は場所取りができなくて、すいません」と、電話をかけてきたのは3年前のお花見の日。それから半年後に逝ってしまいました。
 
「サスケ、天国でも飲んでいるかい?」と日本酒の入ったコップを心の中でカチンと合わせながら、今年もまた無事にお花見ができたことを感謝しました。