【第47回】新宿女装世界の新しい風 2005. 5 新宿歌舞伎町区役所通りの東側、元は都電の専用軌道だった遊歩道「四季の道」と花園神社の裏通りに挟まれて、木造の小規模な飲食店が密集するエリアがあります。遠く戦後の焼け跡闇市に起源をもち、青線（1946〜58年の非合法売春地区）の残り香をとどめてきたゴールデン街地区です。 　 ここが新宿のアマチュア女装文化の発祥の地であることは案外知られていません。1967年に同地区の花園五番街に開店した『ふき』(加茂梢ママ）が東京で最初のアマチュア女装者が集まる店でした。『ふき』は1969年に『梢』に店名を変え、70年代には多くの女装者や女装者好きの男性客で賑わいました。 　 1978年に『梢』の１軒隣に開店した『ジュネ』（中村薫ママ）は、『梢』の経営法を受け継いで80〜90年代に大勢の女装者を育成して新宿女装世界を大きく発展させました。地背上げのため1994年に五番街を立ち退いた後も、ゴールデン街地区の 入口の区役所通りにそびえる丸源54ビルに腰を据えて新宿女装世界の中核として重きをなし、ゴールデン街に生まれた新宿のアマチュア女装文化の伝統を守ってきました。 　 その『ジュネ』も2003年12月、ついに25年間続いた店の灯を消しました。ゴールデン街の女装文化はこのまま消えてしまうのかと、心配になりました。 　 ところが、2004年、新しい風がゴールデン街に吹き始めます。まず５月に『幻影城』が花園五 「「Ｆ」で唄う私。中央が佐藤良美ママ」 番街のかって『梢』があった場所に開店しました。特徴的な鉄平石の装飾の外観もそのままに、新宿アマチュア女装文化の発祥の地に20数年ぶりに灯がともりました。 　 黒蜥蜴ちさとママは『Ｄｕｏ』出身で、その名の通りミステリアスな美女。お店の内装もゴシック風で、元の屋根裏部屋を改装した暖炉のあるロフトなど江戸川乱歩の幻想推理小説の雰囲気をよく再現しています。落ち着いて飲み語れる大人の隠れ家という感じのお店です。 　 続いて９月には、ゴールデン街地区を少し北に外れた花園神社裏通り沿いのビルの地下に『Ｆ』が開店しました。ロの字形のゆったりしたボックス席と、ママ自慢の歌いやすい音響設備が最大の特色。カラオケ好きにはこたえられないミニ・ステー ジ気分が味わえます。佐藤良美ママは『ジュネ』の末期のスタッフ。それだけにカラオケ・スナックとしても愛された『ジュネ』の雰囲気を最もよく受け継いでいるお店だと思います。 　 そして３軒目が、11月に花園三番街に開店した『ジャン・ジュネ』。位置的には『幻影城』の斜め背中、中が覗けるほどの大きな窓がついたドアが特徴です。店名から旧『ジュネ』との関係を思い浮べる人も多いでしょうが、浜野さつきママは『Ｄｕｏ』出身で直接的な継承関係はありません。カウンターだけのこじんまりしたお店で、その分、ママやスタッフとの距離が近いのが男性客にはうれしいところでしょう。 　 これで、既存の三番街の『和』『マナ』、八番街の『たかみ』と合わせてゴールデン街地区に６軒の女装系のお店が集中することになりました。 　 新宿女装世界の変化は、ゴールデン街地区の出店ラッシュだけではありません。秋には新宿２丁目御苑地区の『グッピーズバー アクトレス』がビルの解体にともない立ち退くことになりました。女装会員100 「『性の用語集』　講談社現代新書」 903円（税込） 名を抱える一大勢力の移転先が注目されましたが、11月に新規開店したのは３丁目末広亭ブロック。既存の『びびあん』『粧』とともに、同ブロックの要通り界隈に女装系のお店が密集する形になりました。 　 私が訪れた年明け1月末の金曜の夜は、以前より明るく広く高級感を増した店内に女装客、男性客が集い、いかにも女装系のお店らしい華やかさにあふれていました。 　 また『アクトレス』の移転で御苑地区に取り残された形になった『Ｄｕｏ』は、ママ以下スタッフを全面的に刷新して12月から濱美留来ママの新体制に移行しました。 　 こうして2004年は、新宿女装世界の新しい出発の年になりました。この世界に育ててもらった女装者の一人として、新しいお店、若い世代の手でアマチュア女装文化の伝統が受け継がれ、時代に合った形で発展していくことを、心から祈りたいと思います。 　　 ＊ ＊ ＊ 　 井上章一＆関西性欲研究会『性の用語集』が講談社現代新書の１冊として2004年12月に刊行されました。「性」に関わる51の用語を語源と用法の変化に注目して解説したユニークな辞典です。私は「おかま」「女装」「ゲイボーイ、シスターボーイ、ブルーボーイ」「ニューハーフ」「レンコン」など７項目を執筆しています。話のネタにお買い求めいただけたら幸いです。 　 　 新宿の女装系のお店（新規・移転のみ） １ 【幻影城】http://homepage3.nifty.com/genei/index.htm 【Ｆ】http://www.transgender.jp/f/ 【ジャン・ジュネ】http://www.geocities.jp/jeanjune1104/index.html 【アクトレス】http://www.angelfire.com/ks/ACTRESS/ 【Ｄｕｏ】http://www.transgender.jp/duo/toppage.htm