【第41回】女装系のお店の最新事情

2003. 11

新宿の女装系のお店世界は、女装者だけでなく、女装者を愛好する男性との二本柱で成り立っています。私が歌舞伎町区役所通りのこの世界の老舗「ジュネ」(03-3209-7491)でお手伝いホステスをしていた頃、かわいがってくださったSさんは、そうした女装者愛好男性の代表的な方です。

私が幹事を務めている「戦後日本トランスジェンダー社会史研究会」(代表:矢島
正見中央大学教授)では、Sさんに今年度の聞き取り調査をお願いしました。中央大学市ケ谷校舎で第1回のインタビューを終えた7月末のある日、Sさんが共同オーナーである新宿二丁目の「Duo」(03-3354-9335)に連れていっていただきました。

新宿通り沿いのラシントンパレスの脇の横町を新宿御苑方向に入った左側の地下にある「Duo」(もも子ママ)は、1999年の開店で新宿に10数軒ある女装系のお店でも、比較的新しいお店です。カウンターとボックス席合わせて12〜13人で満席になるけっして大きなお店ではありませんが、週末には立飲みのお客さんが出るくらい賑わっているそうです。
 
この日は、平日だったのでゆったりした雰囲気の中、4人の若いホステスさんが常連のお客さんの相手をしていました。感心したのは、ホステスさんたちの働きぶり。プロのニューハーフ系のお店のように巧みな話術で盛り上げることはしない(でき

お手伝いホステス時代(初期)の私(1995年7月)

「お手伝いホステス時代(初期)」

ない)控えめな接客態度ですが、手元の仕事を手抜きなくするだけでなく、周囲への目配りもできています。
  
水商売のプロの方からすれば、そんなことは「基本の基」でしょうが、もともとアマチュア女装の出身者がホステスを務めることが多い女装系の店では、この程度のレベルでも、なかなか仕込めるものではありません。Sさんが「どうだ、いい店だろう」と自慢するのも、もっともなのです。
 
ただし、いろいろお話を聞くと、感心ばかりしてはいられない状況があるようです。少し酔ったSさんが「ここの連中はな、住所不定無職ばかりなんだ」と言います。それは大袈裟にしても、長引く経済不況下、「Duo」に限ったことではなく、最近は昼
間の仕事が見つからず、女装でホステスするしか仕事がないというパターンの女装者がけっこう増えているのです。
 
女装系のお店では、私がかってそうしていたように、昼間、男性としての仕事を持ち、休前日の夜とかに女装してホステスというのが、多いパターンでした。ところが、そうした「常識」はもう通用しなくなってきているのです。
 
「Duo」の場合、さして大きくない店なのに在籍のホステスさんがなんと13人!。曜日と早番/遅番を組み合わせた詳細なローテーションが組まれています。当然、一人当たりの労働時間は少なくなり、ワークシェアリングと言えば聞こえは良いものの、時給1000円程度を掛け算しても、十分な月収にはなりません。全員がそうではないにしても、昼の仕事が無い人は、かなり生活が苦しい状況のはずです。
 
このご時勢、店としては客単価は上げられず、人件費は抑制しなければなりませ

お手伝いホステス時代(末期)の私(1999年9月)

「お手伝いホステス時代(末期)」

ん。その一方で、女装で働きたい人は増え続けています。一つの解決策としては、客層を拡大して客数の増加によって収益性の向上をはかるという方法がありますが、客層が広がり一般客が増えると、女装系の店としての特色が失われるというジレンマがあります。
 
「Duo」を出て、夏の夜風に吹かれて「ジュネ」に向かいながら、新宿の女装のお店世界も、従来のやり方を踏襲するだけでは、やっていけなくなってきているのかなと思いました。それぞれのお店が個性を発揮しながら、どうすれば、女装者と女装者が好きな男性客がくつろげる空間を演出できるか、真剣に模索しなければならない転換期に差し掛かっているのではないでしょうか。