【第38回】地方都市での女装の場

2003. 02

9月の下旬、新潟市で開催された日本顔学会の大会に出席する前夜、以前からお誘いをうけていた新潟の女装者の皆さんが集まるというお店を訪ねてきました。
 
チェックインしたホテルの前からタクシーを拾い、「昭和新道(しょうわしんみち)まで」と言うと、運転手さんが怪訝な表情。
「昭和新道ですか? 夜、女の人が行く所じゃないですよ」
「でも、案内のメールにそう書いてあるのよ」
というやり取りの末、着いた場所は狭い路地の両側にネオンが輝くソープランド街!。あまりの密集度に新宿歌舞伎町で鳴らしたお姐さんも入って行く度胸がなく、お店に電話して迎えにきてもらいました。
 
月に一度(第3土曜日)、新潟周辺の女装者や女装者好きの男性が集まるスナック「パレス」(稲子ママ)は、周囲こそちょっと驚きでしたけども、クラシカルな雰囲気の落ち着いたお店でした。
 
わざわざ私のために定例日をずらしてくださったそうで、旧知の小宮紘子さん、着物姿の山本由美子さん、お店のスタッフさんかなと思ったあきみさん、とてもナチュラルなえりかさん、ホームページの管理をしている繭さんたち女装の方々、男性客、純女のお客さんなどが迎えてくださり、楽

「パレス」

「「パレス」の看板」

しい一時を過ごしました。
 
「パレス」は、その立地からもわかるように、昔も今もまったく普通のスナックです。女装者が常時集まっているわけではありません。小宮さん、山本さんの両先達が、女装者が気楽に集まり飲める場所をいろいろ探した末に開拓したお店だそう
で、お店が比較的暇で一般客が少ない土曜日を、月に一度だけ女装客に優先開放してもらうシステムなのです。

地方在住の女装者の場合、女装系スナックが数多くある東京・大阪・名古屋などの大都市と異なり、気楽に集まって飲める店が無いのが悩みの種です。しかし、一軒のお店を維持するにはそれだけの顧客がなければなりません。女装者や女装者愛好男性の人口比は、どの地方でも

「パレス」の皆さんと。右端が山本由美子さん。私の右隣は純女のお客さん。

「「パレス」の皆さんと」

大差は無いでしょうから、結局、お店の経営が成り立つ目安は、その都市の人口規模ということになります。
 
経験的に言えば、一軒の女装系スナックが成り立つためには、最低人口100万人が必要な気がします。具体的には仙台あたりがぎりぎりでしょう。ちなみに、一般客もある程度呼べるニューハーフ系のお店なら、人口20〜30万人規模が目安かなと思います。
 
ですから、人口50万人規模の新潟市では、女装系のお店を独立経営するのはか
なり困難です。その点で「パレス」のような間借り集会方式は、とても合理的で賢い方法だと思いました。同様の規模の地方都市で「パレス」方式によって、女装者が月に一度集まれるような場所が確保できれば、地方在住の女装者にとって大きな福音になるでしょう。
 
いろいろご苦労も多いとは思いますが、「パレス」がいつまでも新潟の女装者の憩いの場であることを願っています。
 
* * *
「パレス」を訪ねた翌々日、東京への帰り道に、織物の里塩沢に途中下車してきました。江戸時代の雪国の生活を記録した『北越雪譜』の著者鈴木牧之の資料館を見学し、「織の文化館 塩沢つむぎ記念館」で染織技法の勉強をしてきた3時間ほどの「おばちゃん」の小旅行でした。

「パレス」

「「しおざわ織物物産館」で」

 
赤城生紬の着物姿でコスモスの花が咲く雨上がりの田舎道をトコトコ歩いていると、自分がずっと女として生きてきたような不思議な感覚がしてきました。
 
 
「パレス」ホームページ
http://isweb19.infoseek.co.jp/diary/myumin/pares.htm