【第28回】順子、大学の講師になる

2000. 08

『週刊現代』などで報道されたので、お気づきの方もいらっしゃったかと思いますけども、あたし、4月1日付で中央大学文学部兼任講師に任用されました。同日、琉球大学の兼任講師になった蔦森樹さんと並んで、日本最初?のトランスジェンダーの大学教員ということになります。

今までも1コマだけの臨時講師で慶応義塾大学や早稲田大学などの教壇に立ったことはありましたけども、今回は三橋順子の名前で履歴書・研究業績書を提出して、教授会の投票で承認され、文部省にも書類が提出された正規の大学教員です。どうしてこんなことになったのか、自分でも未だに半信半疑なのですけど、三橋順子の名前で辞令もいただき、身分証明書もあるし、大学の時間割や講義要綱にも「現代社会研究5 三橋順子兼任講師」と載ってます。
 
学生にいったい何を講義するのか、不思議に思う方



大学での初講義の日

もいらっしゃるでしょう。もちろん、Hっぽいお化粧の仕方とか、男を誘うファッションのポイントとか、暗がりですばやくイカせるフィンガー・テクとか、年齢のサバを読む方法だとかを教授するのではなく、性の構造論に始まり、トランスジェンダーの視
点からのジェンダー&セクシュアリティ論、トランスジェンダーと社会の関係史など、ちゃんとまじめに性と社会との関係を考える講義にするつもりです。
 
「女」として大学の先生になれるなんて、ほんとうに夢のまた夢だっただけに、これ以上うれしいことはありません。性社会学研究の必要性とトランスジェンダーの社会進出の意味を十分に認識されて、あたしを起用してくださった中央大学の先生方に心から感謝するとともに、ご期待に背かぬよう気合を入れて頑張るこ



受講学生と記念写真

とを心に誓いました。
 
という訳で、すでに何度か八王子のキャンパスに行ってるのですけども、何より困ったのは、あたしのお洋服、みんなミズっぽかったり、Hっぽかったりで、大学の女性講師らしい服がひとつもないのです。今まで講演のお仕事とか改まった席とかは、ほとんど着物で通して来ましたけども、まさか毎週の講義を着物でというわけにはいきません。昨秋、上智大学で開催された日本社会学会大会に着物姿で行ったら、研究発表者じゃなくて、ツケを溜めてる教授の所に取り立てにきた銀座のクラブのママだと思われたみたいだったし・・・。仕方なく新宿の伊勢丹デパートに
行って、キャリア・ウーマンっぽいスーツやジャケットを買い込み、バッグからお財布、名刺入れ、ペンケースまでそれっぽく揃えて、もう大散財。これでお化粧もぐっと抑え目のナチュラルメイクにすれば大学の女性講師のできあがり、と思ったのだけど、ならない・・・。なんだか歌舞伎町のイメクラの教室プレイの女先生みたいな感じなんです。まあ、そのうち様になると思うことにしよっと。
 
大学の性社会学の先生としての仕事始めに、4月2日、川崎市の川崎大師の近くにある若宮八幡宮の「かなまら祭」を「トランスジェンダー社会史研究会」のメンバーと見学してきました。このお祭は都市部に残る性神信仰としてとても貴重なものです。巨大な男根形の御神輿が大師の門前町を練り歩き、境内には極太の男根形ご神木や鋼鉄の男根形ご神体、それに裸体の女性が巨大男根を抱いている絵馬などがあって、失われつつある性神信仰の実際を目の当たりにすることができました。



巨大男根形ご神木