【第27回】連載5周年、世の中は変わりました

2000. 05

1995年5月に始まったこの連載も、お蔭様で5周年を迎えようとしています。この間にあたしたちトランスジェンダー(性別越境者)を取り巻く社会状況は大きく変わりました。世の中が性別を越境する人たちの存在を少しずつですけども確実に認めるようになってきたのです。
 
それを象徴する出来事が、2000年という節目の年のお正月に起こりました。トランスジェンダー作家の藤野千夜さんが第122回芥川賞を受賞したのです。受賞作の「夏の約束」は、ゲイのカップルと男性から女性に性転換した美容師などとの交流を描いたもので、小学生の頃から男であることに違和感を抱き、勤め先の出版社にスカート姿で出社してトラブルになった作者自身の体験が背景になっています。芥川賞は数多い文学賞の中でも最も知名度がある賞ですから、彼女の受賞は、性別越境者でもちゃんと社会的に意義のある仕事ができることを世の中の人々に印象づける上で、とても大きな意味をもつと思います。 
 
このように一般社会の中であたしたち一人一人がより良い仕事を積み重ねていくことが、性別越境者に対する社会的な偏見や差別を解消していく一番手っ取り早い方法だとあたしは思います。もうすぐやってくる21世紀には、実力さえあれば、トランスジェンダーでもニューハーフでも社会的に差別なく認められる世の中になって欲しいですね。
 



ミレニアムのお正月の順子

話変わって、藤野さんの受賞の翌日の1月15日、新宿3丁目の中華料理店「満月廬」で、「クラブ・フェイクレディ」(CFL)の新年会が開かれました。CFLは、このコーナーをお読みの方はご存じの通り、順子が主宰する女装者の親睦グループです。「自由に、楽しく、みんなで遊ぼう」をモットーに、「社会性のある女装ライフ」を目指して、1995年4月以来、商業女装クラブや女装系のお店の枠組みにとらわれない女装者の自主企画という形で、模擬店「フェイクレディ」の一日営業や女装温泉旅行「フェイクレディ・ツアー」(FLT)、それにお花見・納涼船・屋形舟などの季節イベントを主催してきました。
 
この夜も、着物姿はもちろん、女子高生あり、アンミラのウェートレスあり、中国人民解放軍の女将校ありの思い思いのファッションで11名の仲間が集まり和やかな時間を過ごしました。仙台の小谷理美さんなどは出張先の花巻(岩手県)からはるばる駆けつけてくれて、ほんとうにうれしかったです。集まった人それぞれ、女装
に対する考え方や女装スタイルは違いますけども、共通しているのは、自分のしたい女装姿で世の中を胸を張って歩いてることです。だから、料理屋さんの店員さんはもちろん、相客の人たちも後ろ指をさせないのです(後で話題にしてるのは間違いないでしょうけども)。
 
CFLが活動を始めてからもうすぐ5周年、参加者もずいぶん入れ換わりました。初期の参加者の中には、現在は完全に女性として社会生活を送っている人もいます。性転換手術まで済ませた人さえいます。髭の隠し方も未熟な初心者だった人が今では新宿女装世界のスターに成長しています。その一方で、あたしのように5年間ほとんど何の変わり映え



CFLの新年会

もしない人間もいます。でも、それでいいのだと思います。CFLの活動をそれぞれの人がより良く生きるためのステップにしてくれたらばと思うのです。
 
「社会性のある女装ライフ」というCFLの考え方は、保守的な既存の女装世界の内部からたくさんの非難・批判を受けてきましたけども、それ以上に大勢の仲間のご支持とご協賛を得ることができました。そしてこの5年間の一般社会の動向は、CFLの考え方が間違っていなかったことを証明していると思います。これからもCFLは、女装旅行や季節イベントなど、一般の人達と接する努力を続けていきたいと思ってます。その交流を通じて、一般の人たちが、性別越境者の存在を少しでも認識してくれれば幸いに思うのです。