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「おネエさん、歳は?」 「20歳よ」 「あのさぁ、ウソにも程度ってものが・・・」 「やっぱり無理かしら、ほんとうは32歳よ」 「まったく一回りもサバ読むなよなぁ」 いるんですよね、初対面でいきなり「女」の歳を聞いてくる野暮な男性が。そもそも女装娘に年齢を聞いても無意味なのです。冒頭のやり取りにしたって正直者の偽ホステス順子ちゃんだからこそ、まともな会話になっていますけど、「おネエさん、歳は?」 「23歳よ」 「ウソにも程度ってものが・・・」 「やっぱりバレちゃうのね。ほんとうは16なの。警察にはナイショよ」 「・・・・」 なんて二の句が継げないケースもしばしばあります。なにしろ女装娘は性別を超越してるくらいですから、年齢なんて簡単に超越しちゃう人が多いのです。 にもかかわらず、さらに細かな質問をしてくるいじわるな男もいます。 「干支(えと)は?」 「最初に覚てる総理大臣は?」 「相撲の横綱は?」 「オリンピックは?」 あたしなら「未(ひつじ)、田中角栄、若乃花、モントリオール」とまったく澱みなくすらすら答えちゃいますから詮索するだけ無駄なのですけどね。若乃花は、もちろん栃錦とライバルだった「土俵の鬼」の方じゃなくて、お尻におできができて引退した二代目の方ですよ。それから「オリンピックはモントリオール(1976年)」と答えた直後にあたしが他のお客さんと「鬼に金棒、小野に鉄棒」(小野は1960年ローマオリンピックの金メダリスト)なんて話で盛り上がっても気にしないでくださいね。なにしろ女装娘には、まだ生まれてないはずの出来事をまるで見てきたように話す特技がありますから。 たとえば1984年のロサンゼルスオリンピックの話をしているのかと思ったら、南部忠平が三段跳びで優勝した1932年のロサンゼルスオリンピックの話だったり、もっとひどい時は、「木曽の田舎武者が上皇様の御所に焼き打ちをかけてきた時は・・・」「あの後、お姉さまも平家一門と西海に落ち延びて、さぞやご苦労が・・・」なんていう会話がどこからか聞こえてきたりしますからね。
よく「カラオケの選曲で歳がバレる」と言う男性もいますけど、これも当てにはなりません。なぜなら勤勉な偽ホステスである順子ちゃんは、自分よりずっとずっと上の年齢層のお客様のために昔の歌を頑張って練習して覚えてしまいますから。だから順子が、菊地章子「星の流れに」に始まって、西田佐知子「女の意地」、ザ・ピーナツ「ウナ・セラ・ディ東京」、園まり「逢いたくて逢いたくて」、倍賞千恵子「さよならはダンスの後に」、日野てる子「夏の日の思い出」、青江ミナ「伊勢佐木町ブルース」、黛ジュン「夕月」、小川知子「ゆうべの秘密」、中村晃子「虹色の湖」、いしだあゆみ「ブルーライト・ヨコハマ」、弘田三枝子「人形の家」、森山加代子「白い蝶のサンバ」、辺見マリ「経験」、藤圭子「圭子の夢は夜ひらく」、渚ゆう子「京都慕情」など1950〜70年代ヒットメドレーをまるで生で聞いていたかのように上手に歌って、越路吹雪「ラスト・ダンスは私に」で締めても、それは努力の成果であって、決して順子の実年齢を示すものではないのです。 では、女装娘の年齢とは、なんなのでしょうか。それは見かけの年齢、見たままの年齢です。すぐれた女装娘なら、古今東西の若返りの呪術に通じ、労をいとわず世界の秘薬を集めます。例えば人魚の肉が永遠の若さを保つ妙薬と聞けば、カリプ海の果てまで出かけて手にいれるなど、財貨を惜しみません(ビーフ・ジャーキーみたいなのが1本100万円だそうです)。男性の身体というベースの上に選び抜き磨き上げた女の要素をひとつひとつ丁寧に積み重ねて、生身の女性では表現できない人工の美、女装の美を作り上げているのです。そうやって精根を傾けて作り上げた容姿の見たままの年齢が、あたしたち女装娘にとっての「真」の年齢なのです。戸籍上の年齢なんて、この世界ではたいした意味を持たないのです。 性を越えることに巧みな者は、時を越えることにも通じています。さあ皆さん、時を駆ける女装娘と一緒に、性と時間を超越した異空間に遊んでみませんか。 |
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