【第2回】模擬店「フェイクレディ」開店 1995.7

「ママ、ボトル出してください」
「きゃ〜ぁ、あと4本しかないわ。どうしよう、お酒足りなくなるぅ」
「ママ、氷またなくなります!」

お店の製氷機はとっくにキャパシティ・オーバー、あちこちのコンビニのロックアイスは
さっきもう買い占めました。店内は完全満席状態。あふれたお客さまは、階段の踊り場
に椅子を並べた特設第二会場に収容中。それでも何人かが階段に立って待っててくだ
さる。どうしてこんな騒ぎになっちゃったんだろう。もう頭はパニック寸前。でも頑張らなく
ちゃ、今夜は、あたしがママなんだから。

こんにちは、順子です。冒頭のシーンは、あたしの「お店」「フェイク・レディ」のオープ
ン記念パーティーのひとこまです。「フェイク・レ
ディ」は、その名のとおりフェイク(偽もの・まや
かし)だらけ、つまり、ママもホステスもいかに
もオミズっぽく見えるけど実はど素人、それに
女性のなりはしているけど実は女装者、さらに
店の名前や看板はあるけど実はお店そのもの
が現実には存在しない、という「お店」です。
なんでこんなとんでもない「お店」が出現した
かというと、友人のキャンディ・ミルキィさんが
発行している女装雑誌『ひまわり』に、あたしが
「フェイクレディ物語」というヴァーチャル・リアリ
ティ(仮想現実)的なお話を書いたのがきっかけ
でした。本当なのか嘘なのか、女装社会でけっ
こう話題になり、まじめな読者からは「嘘つき!
」というお叱りもいただきました。「嘘つき」と言
われると、意地っ張りなあたしはこう考えます。


「じゃあ、嘘じゃなくしちゃおう」。「おもしろいことは大好きよ」の性分の新宿の本物のお
店のママさんたちも「順子ちゃん、そこまで考えたのなら一度やってみなさいよ。おもし
ろいじゃない」と励まして(そそのかして)くれました。

 そんな訳で、仮想現実世界のお店「フェイク・レディ」が1995年4月29日の夜、一晩だ
け新宿3丁目のスナック「びびあん」と同じ場所に出現したのです。
 あなたの所に「フェイク・レディ」という店から案内状が届きます。差し出し住所は「新
宿第5亜空間内」となっていてなにやらあやしげ。地下鉄新宿3丁目駅のC10番出口


を出て「ほんとうにそんな店あ
るのかな?」と思いながら案
内状の場所へ着くと、銀地に
黒で「Fake Lady 贋作淑女」
と記されたシックな看板がドア
にかかってます。
「いらっしゃいま〜せ」の声に
迎えられて席に案内されると
「いかにも」って感じのケバめ
派手めの美人が「いらっしゃ
いませ、ママの順子です」と
色刷りのおしゃれな名刺を差
し出しながら、あいさつに来ま
す。「おっ、ホステスもなかな
か美形そろいだな」と思ってよく見ると、なんと『ニューハーフ倶楽部』第2号のカーグラ
ビアで妖艶な姿を競っていた秋本明香嬢と岡野香菜嬢。「ご指名は?」のママの言葉
に思わず迷ってしまうあなたです。

 あっ、こんな優雅な高級クラブ風は、あくまでも仮想現実の方で、現実の「一日営業」
の時は、冒頭のような大混雑の居酒屋的なドタバタ状態。わざわざお出掛けくださった
皆さん、混雑とあたしたちの不慣れで十分なことができず申し訳ありませんでした。あ
りがとうございました。
 次回の「一日営業」は未定。詳しくはまたご案内しますので、読者の皆さんもよろし
かったらいらしてください。そして現実世界と仮想世界とが微妙に入り交じる虚実皮膜
の女装世界のおもしろを楽しんでいただけたら幸いに思います。