【第17回】六本木お着物デート

1998. 01


 あけまして、おめでとうございます。お陰様でこの連載も3度目のお正月を迎えるこ
 とができました。今年も「自由に、楽しく、みんなで遊ぼうよ!」という「クラブ・フェイ
 クレディ」のモットーを高く掲げて頑張ろうと思ってますので、よろしくお付き合いくだ
 さい。
  
 え〜と、お正月なので着物の話です。順子の唯一の趣味というか道楽が着物です。
 いったいいくつあるのでしょう?。振袖でしょ、訪問着でしょ、付下げに小紋に縞に、
 紬が大島・塩沢・お召、夏物の絽。着物が9枚で帯が6本、加えて浴衣が6枚。初
 めて浴衣を買ったのが1995年6月だから、わずか2年半の間によくもまあこんなに
 増えたものだと、我ながら感心し(あきれ)ます。仲良しのTS娘に「順子姐さん、着
 




「冬木立の街角で」

物買わなければ手術できるのに
ぃ!」と言われたけど、ほんとうに
性別再判定手術の費用に見合う
くらい着物屋さんに支払っちゃって
る計算になるわぁ(もともと手術す
る気はないからいいのだけど)。

買った着物はタンスの肥やしにし
ないで、せっせと着てます。浴衣
を入れれば年間20回くらい着てる
かな。本物の女性と比べても多い
方と思いますよ。着慣れているか
ら、自分で言うのもなんですけど、
あたしの着物姿は決まります。
「にせむすめ」ならではの大胆華
麗なコーディネートと、お江戸風の
粋な着こなしは普通の女性にはち
ょっと真似できないと思いますよ。
  
ナルシストだから自分の着物姿を
鏡に写して眺めるのも好きだけど
、着物が良く似合う女の人も大好
き。晩秋の夜、そんなすてきな女
性と「お着物デート」をしました。
  
待ち合わせの六本木の本屋さん
に現れた彼女は黒地に「のし模
様」の小紋に金彩の帯。あたしは
黒地に「扇散らし」の小紋に白地
 に雪輪模様の帯。「順子お姉さま、黒地の小紋でお揃いにしましょうよ」と事前に
 打ち合わせた通りです。江戸風のきりっとした着付けのあたしに対し、彼女ははん
 なりとやさしい京風。アップに結った髪と色白な襟足に女盛りの色香が匂います。
 
 六本木通りを連れ立って歩いて、彼女が予約しておいた懐石料理のお店へ。
 「すれ違う人、みんなお姉さまを見てるわ」
 「違うわよ。いい女二人を見てるのよ」
 お料理もとてもおいしかったけども、美人で聡明で好奇心旺盛、才色兼備という言
 葉そのものの彼女との会話がそれ以上に楽しかったです。「気持ちのどこかにオ
 ヤジがいるの」と言う彼女と「にせむすめ」のあたしとは、感性的にどこか共通する
 ものがあるみたいで、「えっ、あたしも!」という場面が何度もあったし、「女」同士
 のちょっときわどい話題になって頬が赤らむこともありました。
 
 帰り道、彼女のためにタクシーを拾おうとしたら、「もう少しこのまま。順子姉さま、
 お手をつないで歩いてくださる」と彼女。つないだ手のやわらかな感触を確かめな
 がら、時間を惜しみながらゆっくりと歩きました。彼女の袂がゆれて袖口から、あた
 しとお揃いの緋の長襦絆がちらちらのぞきます。あたしにとって夢のような一時で
 した。もしも夢の続きが見られるのなら、緋の長襦絆姿の彼女を同じ姿でそっと抱
 き締めてあげたい。そんな思いにかられた秋の夜でした。