【第16回】
女装はイメージ操作の遊び
1997. 11
「いらっしゃいま〜せ」と、あたしが差し出したお絞りを受け取りながら、なぜか怪訝
そうな顔のお客さま。
「お飲み物、何になさいますか?」
「バーボンの水割り」
「はい」
「キミ、そういう格好もするんだ」
ん?今夜のあたし、そんな特別なファッションかな。色白の谷間がしっかり覗ける襟
ぐりの深い黒に銀ラメのタンクトップでしょ、普通に立っててもむっちりヒップが覗けそ
うな股下3センチの黒のマイクロミニでしょ
肉感的な脚線を包む黒のバックシームの
網タイツでしょ。いつもと変わらない新宿歌
舞伎町クラブ「ジュネ」のHっぽい働き者の
ボランティア・ホステス順子ちゃんのはず
なんだけどな。
「いつもこんな格好ですよぉ」
「いや、以前会った時は、2回とも着物姿
だったからさ。ちょっと驚いたんだよ」
お話うかがってなるほど、この方のイメー
ジ世界のあたしは、粋な着物を優雅に着
こなした銀座ママさん風のお姐さんだった
のです。
「イメージ壊しちゃてごめんなさいね。でも
両方ともあたしなんですよ」
虚実皮膜の世界である女装の世界は、
別の言い方をすればイメージの世界です。
すぐれた女装者は上手に自己イメージを
操作できる人だし、女装者にとってすてき
な男性とは、その操作されたイメージを上
手に受け止めて、そのイメージ世界で一
緒に遊んでくれる人なのです。あたしが
「Hっぽい系の順子」
ほぼ毎週「出勤」している「ジュネ」(新宿区役所前 丸源54ビル2F 電話 03-3209
-7491)のようなお店は、本来そうした大人のイメージ遊びの場なのだと思います。
だから性別はもちろん年齢や昼間の職業みたいな個人情報は、イメージ化というフ
ィルターを通してしまうから意味はないのです。
ところで「ジュネ」に代表されるお店世界は、たくさんの方が出入りするオープンな
社交場ですからセクシャルなイメージの現実化には限度があります。ある程度以上
「お店ママさん系の順子」
はやっぱりプライベートなお遊び
の世界でということになります。
あたしは、幸せにもひとつのイメ
ージ世界を共有できる信頼でき
る男性パートナーたちを持ってま
す。
あるお相手にとっての私のイメー
ジは新宿3丁目の第一勧銀前に
立ってるストリートガール。だから
待ち合わせの時は、そんな感じ
のファッションでその場に立ちま
す(もちろん時間はしっかり決め
てですけど)。やがて銀色のベン
ツがあたしの前に停まり、運転
席から彼が声をかけます。「おネ
エさんいくらだい?」。ちまたでは
イメクラがブームですけど、あたし
と彼のこんなお遊びも現実の新宿の街を舞台にしたイメージプレイと言えますね。
またあるお相手とあたしとのイメージ設定は、ご主人様と調教中の淫乱マゾ娘。ガ
ーターベルトのストラップもあらわなマイクロミニのボンデージファッションで夜の街や
公園でたっぷり露出調教された後、ラブホテルでこってり弄ばれます。コルセットで
ウェストを思いきり絞られ、黒革の乳枷で絞り出されたおっぱいの乳首をクリップで
挟まれて、後のおまんこに直径5センチの極太の張形をぶちこまれて、いやらしい
肉棒の先からお露を垂らしながら、お相手のたくましいペニスにむしゃぶりついてる
自分の姿を鏡で見る時は、興奮と同時にイメージの現実化の成功という意味でけっ
こううれしいものなのです(書いてて恥ずかしい・・・)。
それもあたし、これもあたし。多様なイメージ世界に遊ぶことのおもしろさは一種の
麻薬のような魅力があります。ただイメージの現実化は簡単ではありません。あた
しはそのために時間を費やしてきたし、これからも努力を惜しまず「女」を磨き続け
ようと思ってます。
さあ、今夜はどんなイメージの女を演じようかな。