【第14回】雨の夜のお話

1997. 07


 7月の連休に、仲間9人と南三陸の気仙沼へフカヒレや生うにを食べに行ってきまし
 なじみのお客さまをタクシーまで送る。雨はまだしとしと降り続いてる。エントランス
 の壁面の鏡で濡れた髪をチェックしていたら、軽く肩を叩かれた。
 「やあ、やっと会えたね。キミに会いたくて
 何度も通ったんだよ」
 振り返ってみると、まだ寒かった数カ月前
 ちょっぴり欲求不満だったあたしが求めら
 れるままに、かなり濃厚なお触りを許した
 初老の男性客だった。その後もあたしに
 会いたくて何度も来店したけど、あたしは
 出勤不定のボランティア・ホステス。かわ
 いそうに空振りを繰り返したらしい。
  
 男と一緒に店に戻る。今晩はママはお休
 み、お客も常連さんばかりだし、少し大胆
 にやってもいいだろう。留守を預かるチー
 ママと、さりげなく打ち合わせてカウンタ
 ーの一番隅に男を案内する。
  
 飲みながら男がしきりに前回の出会いの
 ことをしゃべる。「すばらしかった」「あんな
 気持ちになったのは久しぶりだった」「忘
 れられない」と。要はそれを再現したいと
 いうことなのだけど、聞いてて悪い気はし
 ない。男の好みは生脚。しきりにストッキ
 ングを脱ぐように求める。「今日は脱ぎに
 くい靴なのよ」とさんざん焦らしあげく、トイ




「ソファーベッドで」

 レに立った時にガードルと網ストッキングを脱いだ。
    
 男の目の色が変わり、手があたしの素肌の太腿を撫で始める。「吸い付くようだね。
 むっちり色白で、こんな素敵な脚は本物の女でもそうはいないよ」と。時間と手間を
 かけて女性化した自慢の肌をほめられて、ナルシストのあたしの気分も高まってい
 く。男は太腿からふくら脛までゆっくり撫で摩りながら、あたしの手を自分の股間に
 導く。やがて小さなものがあたしの手の中で力を増してきた。
 「普段は立たないんだよ。キミだとほらこんなに」
   
 先端が潤い始めるにつれて男が大胆になった。脚を撫でるのとは別の手が後ろか
 らあたしのスカートの中に侵入し、指がヒップの割れ目の奥を探る。襟ぐりの深いセ
 ーターを押し下げられ露わにされた左の乳房に男の舌が這う。ツンと立った乳首を
 吸われた時、あたしもかすかにあえぎ声を漏らしてしまう。
 「イカせてくれよ」
 「駄目、ここはお酒を飲むお店よ」
 そう言いながら男の手を払いのけて氷とボトルを取るために立ち上がる。あたしの
 マイクロミニのスカートは捲れたまま。男の目の前には黒のTバックショーツで区切
 られた真っ白な双丘があるはずだ。それを承知でなおも腰を男の顔の前に突き出し
 て挑発する。
 「もうだめだ。キミの手でイキたい」
 「だから駄目だって。お店の中じゃあ」
 
 男が立ち上がりチェックを求める。チーママが手渡した請求メモはいつもより高目。
 でも十分にそれだけの価値はあるはずだ。男を送りに出る。階段の踊り場で求めて
 きた。露出した男の股間のものを隠すためにぴったりと身体を寄せる。
 「いい香りだ」
 あたしのうなじで男が言う。場所が場所だから急がないといけない。意識を指先の
 技巧に集中する。数分後、男は「うっ」と小さく声を漏らすと、あわててポケットから
 ハンカチを取り出した。
 雨はまだ止んでいない。
   
 こんにちは、順子です。こんなお話、いかがですか。実話か創作かはご想像にお任
 せするとして、私しのようなタイプの女装者は、けっこう人が悪いのです。普通に歩
 いていてもお尻が覗けそうな超マイクロミニ、色白のおっぱいの谷間がのぞく胸元、
 蠱惑的に漂う香水、妖しい幾何学模様の網ストッキング、あるいは吸い付くような感
 触の生脚、ぽってりとした真っ赤な唇、唇とお揃いの真っ赤なマニュキュアで彩られ
 た指先。ある意味ではみんな意識的に計算された「甘い罠」なんです。そんな仕掛
 けに男性がかかってくれると、罠の有効性を確認できて「ああ、あたしには男を引き
 付ける魅力があるんだなぁ」って、とってもうれしいのです。
   
 いかがですか、どなたか罠を承知でかかってみませんか。