【第12回】フェイクレディのお花見

1997. 03


 7月の連休に、仲間9人と南三陸の気仙沼へフカヒレや生うにを食べに行ってきまし
 クリスマスの夜は大好きなオジサマと新宿3丁目の交差点の路上で、まるで外国映
 画の1シーンのような熱いキスを交わし(一般通行人は、でっかいオカマと禿げ頭の
 オヤジのラブシーンにさぞ驚いたでしょうけど、いいのいいの。本人たちが大満足な
 んだから)、お正月は黒地に銀ラメ、袖先と裾に曙模様の大振袖を着てお年始回り
 (「振袖着る歳か!」ですって? いいのいいの、銀ラメのお振袖なんて着こなせるの
 あたしだけなんだから)。こんな風に書き出して困ってしまうのは、この文章が書店に
 並ぶのが桜の花もほころぶ3月末ってこと。そんな頃になってクリスマスと正月の話
 じゃあねぇ。隔月刊の雑誌の連載って難しいなぁ。
    
 そんな訳で、今回のテーマはお花見です。お江戸の昔から日本人はお花見、いえ
 桜の花の下で飲んで騒ぐのが大好きでした。宴会には余興が付き物、余興と言えば
 仮装、仮装の定番は女装というわけで、お花見と女装は縁が深いのです。あたしも
 お花見大好き。「女の子として桜を眺められるのはあと何回かな」なんて思うと気合
 の入り方が違います。
   
 去年のお花見は3連チャン。まずは4月5日(金)、お昼頃からお化粧、鬘セット、着
 付けと済ませて、歌舞伎町の「ジュネ」に「出勤」する前の夕方、お店の長老静香姐
 さんと皇居北の丸の千鳥が淵へ。あたしの着物は白の塩沢つむぎ、半襟と帯締は
 花に合わせた桜色。満開の桜の下に着物姿で立つという長年の夢(『細雪』ごっこ)
 が初めてかない、うれしかったです。
 翌6日(土)は、お世話になってる着物の「三松」のお花見会で目黒雅叙園へ。「あた
 しみたいなのが行っていいのかなぁ」と思
 ったけど「招かれる内が花だわ」と思い、
 お出掛け皆さん、最初は驚いたみたいだ
 ったけど、後は普通に接してくださいまし
 た。着物姿で普通のお嬢さんたちに混じ
 ってのお花見なんて少し前までは夢にも
 思わなかったこと。とっても感激でした。
   
 さて、最後は順子主宰の日本最強の女
 装親睦集団「クラブ・フェイクレディ」のお
 花見。着物屋さんに戻って洋服に着替え
 て、新宿駅で仲間の女装娘3人と合流し
 てお花見のメッカ上野公園へ。中東系の
 男たちから「オネエサン、セクシーよ」など
 と声がかかり、無視して通り過ぎると口
 笛をヒューヒュー鳴らして「オー、クールレ
 ディね」なんて言ってる。おまけに禿げ頭
 のオッサン(一瞬、冒頭に登場したお店
 のお客さんかなと思ったけど、ぜ〜んぜ
 ん知らない人)が握手を求めながら歩い
 てくるし、いったいなんなのよぉ。
 歩く先の人の群れが分かれるという「モ
 ーゼ現象」を起こしながら(現在これがで
 きる女装者は数少ない)やっと仲間(男




「皇居・千鳥が淵で」

 衆)が徹夜で確保しておいてくれたスペースに座るか座らないかの内に、お隣の大
 団体さん(某有名企業)からフライドチキンの大皿の差し入れがくるし、乾杯もまだな
 のに、どこぞのオヤジが「写真撮らせて」と頼みにくるし、散策の人達は立ち止って
 人垣はできるし、毎度おなじみの「見世物」状態に。「見物料金取るよぉ、まったくぅ」
 おまけに買い出しに行けば、缶ビールを買った売店のオジサンがお釣りを2000円も
 余計にくれるし(決してあたしに驚いたからではありません・・・と思いたいです)。
   
 注がれるままにちびちび飲んでいたら睡眠不足(朝5時過ぎまで、お手伝いホステ
 スしてたから)のせいか、あたし、もうヘロヘロ。横座りがだんだん崩れて最後は寝
 そべり状態。ん?、オヤジたちがたくさん立ち止まってこっち見てる。「こらぁ、超ミニ
 のオカマが桜の花の下で寝そべってるの、そんなに珍しいかぁ」(もちろん声に出し
 たわけではない)。見上げると薄墨色の空に満開の桜。
 う〜ん、あたし、幸せだよぉ!
 え〜と、「クラブ・フェイクレディ」のお花見は、毎年4月の最初の土曜日の夕方、上
 野公園の大きな桜の樹の下でやってます。見かけたら遊びに寄ってくださいね。