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2003年11月22日(土) 九州旅行 -花魁に変身-

分県別府市にある「二幸荘」という旅館は、変身旅館として一部ファンの間
では有名なお宿で、新聞などにもときどき取り上げられています。
友達3人との2泊3日の九州旅行のメインイベントとして、「二幸荘」に泊って変身撮影を楽しんできました。
「二幸荘」の看板
「二幸荘」は、別府の中心街から南に離れた浜脇温泉(旧浜脇遊郭)の一角にあります。1泊2食付で11,000円(休前日 税別)という料金が示す通りの普通の日本旅館です。一流観光地の高級旅館に比べたらお食事も設備も見劣りするのは当たり前ですが、料金に見合ったものは出ます。
 
ここの最大の特色は、なんと言っても男女和洋220種類以上の仮装ができることです。しかも付加料金無しで! 和装なら、お姫様、花魁、芸者、舞妓などなど。もしやりたい扮装を1晩1度の変身でやっていったら、いったい何泊しなければならないのでしょうか・・・。
 
「二幸荘」の公式サイト
私は当初からの希望通り、花魁姿をお願いしました。
白塗りの本化粧は、オーナー(元高校の社会科の先生の年配の男性)が自らしてくださいます。本化粧は10年前に花嫁衣装を着て以来で、水白粉のヒンヤリした冷たさで、夕食時のビールによる眠気がスッと抜けて、気合が入りました。
 
鬘は演劇用の本格的なもので、形だけでなくサイズも大・中・小と揃っています。私は、花魁の典型的な髪型である「立兵庫」をつけてもらいました。略式軽量化されてるとはいえ、結い上げた髪の量と髪飾りの数
が半端じゃなく、相当な重さです。
ちなみに、花魁の髪飾り(簪の差し方など)は、京都島原と江戸吉原では、かなり違いがあり、私のは吉原の流儀に近いようです。
 
着付は、専門のおばさんがしてくれます。亀甲模様の金欄の襟のついた緋の襦袢(新品)を裾引きに着付けた上に、直径20cm、長さ30cmほどの円筒形の帯枕を特殊な装着金具と緋色のしごき2本で胸前に固定します。そして水色の地に紅葉を散らした華麗な帯を巻いて、長い垂れを円筒形の帯枕に被せ、その上に金色の房飾りを垂らします。これで花魁装束の最大の特色である豪華な前帯姿ができあがります。
 
この状態で、右手で前帯の下を支えながら、左手で褄を取りながら、かつ高い鬘の頂部をひっかけないように注意しながら、階段を降りて1階の撮影場に向かいます。一応、介添えの人がついてくれるのですが、大きな前帯のせいで足元はまったく見えず、かなり怖かったです。
 
撮影場所に着いてから、用意してくれた仕掛け(打掛)を羽織ります。私が羽織った仕掛けは上半身が黒地に金龍、下半身が桜と紅葉を細かく散らした言葉では説明できないくらいのゴージャスなものでした。
ちなみに、花魁の仕掛けは袖は通しますが、肩にはかけないのが決まりなので、立ち姿の時は、左右の手で仕掛けと前帯を支えることになります。
 
撮影は自分のカメラで撮る限りは無料、専属のカメラマン(女性)に撮ってもらうと1ポーズ1000円です。
私は、立ち姿を2パターンと、ちょっとくつろいだ座りポーズを2パターン撮りました。
高下駄をはいた立ち姿。前帯の豪華さがよくわかります。実際には、外出(花魁道中)の時には、褄を取りますから、こうした姿にはなりません。
座敷で初会の客に対した時(「引付け」と言います)、「見栄」を切るポーズ。
「見栄」の切り方には、各店で流儀があったようです。前帯が大きいのでそれほどとは思わないかもしれませんが、このポーズ、かなりの反り身で、重い鬘と重い仕掛けを身につけた状態では、かなりつらかったです。
行灯を横に置いた立て膝姿です。髪型と髪飾りの様子がよくわかると思います。
仕掛けの右袖を抜いて左肩だけに掛けた姿です。仕掛けの袖の模様(金龍)がよくわかります。
仕掛けを完全に脱いで前に敷いた長襦袢姿です。花魁が私室で馴染み客とくつろいでいる姿だと思ってください。仕掛けの下半身の模様(桜と紅葉)がよくわかります。
くつろいだ長襦袢姿で、贔屓の旦那からの手紙を読んでいるところです。けっこう長い手紙のようですが、「近々必ず必ず身請いたし候ふ」とでも書いてあるのでしょうか。花魁の顔、ちょっとうれしそうです。
狸顔なので恥ずかしいのですが、ちょっとアップに撮ったものです。髪型や化粧がよくわかると思います。
この「立兵庫」という髪型は、兵庫髷から発展した髪型の中では一番ゴージャスなもので、全盛の花魁の権勢と格式を示すものとして、演劇世界ではよく登場します。ただし、実際には、結上げや維持が難しかったようで、高さが低い「横兵庫」の方がよく結われたようです。
参考として、今に残る花魁の写真の中から「立兵庫」と思われるものをご紹介します。大正3年(1914)4月、吉原遊郭角海老楼の白縫花魁の花魁道中姿です。
(森田一朗編『遊郭』筑摩書房 1998年1月 より)
いっしょに行った友人と記念撮影。左は琉球のお姫様姿の小谷理美さん、右は赤坂芸者姿の南洋子さんです。
 
ほんとうはもっといろいろなポーズで撮りたかったのですが、なにしろ鬘と衣装がとても重く、それでポーズを取り、表情を作るのは、昔、一応のモデル修行をした私でもかなりの苦行でした。日ごろの不摂生と寄る年波で筋力が衰えた腰、内腿、そして膝がピキピキ軋みだし、汗も出てきて、もう限界でした。
 
でも、一家言も二家言もあるオーナーに「化粧の乗りがいいし、最高にきれいでよくお似合いでした」と言ってもらえたし、着付のおばちゃんには「お客さんは、『花魁顔』だからきれいに写りますよ」と言われたし、カメラマンさんは「これだけポーズがつけられる人は少ないんですよ」と言ってくれたし、お遊びとしてはかなりの重労働でしたけども、「二つか三つ前の前世は吉原の花魁」と思い込んでる私としては、念願がかなって大満足でした。
 
別に宣伝する義理があるわけではありませんが、1泊2食本格変身付きで11,000円という料金は、東京や京都では考えられない破格のお値段です。別府までの交通費を考えても、観光とうまく組み合わせれば十分に楽しめると思います。
 
ぜひ皆さんも、お試しになって損はないと思います。
11月23日(日) 別府地獄巡り へ つづく...
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