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台北市誠品書店敦南店ロビーちちちちちちちちちちちちちちちちちちちちち2003年12月14日

Leslie Feinberg 『藍調石牆T』出版記念座談会

(スピーチ)
 
ご紹介いただきました三橋順子です。台湾に呼んでいただいて、この場でお話できることをたいへんうれしく光栄に思います。

私は、身体は男性のままですが、社会的には「女性」として活動しているMTFのトランスジェンダーです。日本の中央大学の社会科学研究所、そして国立の国際日本文化研究センターの非常勤研究員という立場で、日本のトランスジェンダーの社会史を研究しています。
 
現代の日本のトランスジェンダーは、大きく二つの考え方に分れています。一つは、自分自身をGIDという「病」であると認識し、医学的処置によって身体を望みの性に近づけ、戸籍(法的身分)も望みの性に変えて、マジョリティの中に埋没して生きていこうとする人たちです。もう一つは、自己決定として望みの性で生きることを選択し、身体(性器)の形や法的身分はともかく、トランスジェンダーとしての、マイナーセクシュアリティとしてのプライドをもって社会の中で生きていこうとする人たちです。
 
私は後者ですが、どちらの考え方が正しいということではなく、どちらの考えの人も幸福に暮らせるような社会にすべきだと主張してきました。
 
しかし、最近日本では、前者の考え方が主流化し、後者の人々が抑圧されかねない状況が生じてきました。今年の7月に成立した「GID特例法」をめぐる動きなどには、そうした側面が表れています。
 
性を越えて生きようとする人たちすべてが、その生き方をつらぬき、幸せになれる社会を作らなければならないということは、アメリカでも、日本でも、そして、この台湾でも、同じだと思います。私たちは、たとえ今苦しくても、そのために頑張らなければならないのです。私は、そのことを台湾の仲間(同志)たちに伝えようと思ってここに来ました。 ご静聴ありがとうございました。
 
 
(質疑応答)

【質問1】
日本の新しい法律では、結婚していないことが条件になっているという昨日のお話でしたが、それは同性婚とのかかわりからですか?。その点に対してLGBはどのように連帯したのですか?。

【答え1】
婚姻要件は同性婚を防止するためです。この条項に対してはごく一部のLGから反対表明がありましたが、大多数のLGBは無関心でした。と言うより、日本においては残念ながらLGBとTとの連帯は、ほとんどないのが現状です。
 
 
【質問2】
日本では、性別の移行過程で、医師が強い決定権をもっているようですが、それは、当事者の自己決定という観点から問題なのではないでしょうか?
 
【答え2】
日本の現状は、当事者の自己決定権が損なわれていると私は思います。しかし、日本では、当事者の自己決定による性別の移行という考え方は主流的ではありません。「病」の治療という形で医師の助言や指導、あるいは抑制に当事者が依存する形が一般的です。
 
 
【質問3】
貴女はトランスジェンダーの当事者であり研究者であるわけですが、その点についてなにか留意していることがありますか?

【答え3】
最も留意し、あるいは悩むのは、当事者性と研究者としての客観性のバランスです。何教授のような非当事者の立場からすぐれた研究がなされる場合もありますが、私のような当事者性をもつ者でなければ不可能な研究テーマもあるはずです。非当事者・当事者双方の立場からの研究があって、初めて良い果実が得られると思っています。
 
 
【質問4】
トランスジェンダーとして社会的活動をする際にいろいろな困難にぶつかると思いますが、どのように対処していますか?
 
【答え4】
たしかに様々な困難にぶつかります。私のトランスジェンダーとしての10年間の社会的活動は困難を乗り越えることの連続でした。人は困難にぶつかった場合、二つの対処方法があると思います。一つは全力で壁にぶつかっていくハードアタックです。 Leslieの方法はこちらに近いかもしれません。この方法はインパクトは大きいですが、自分もダメージを負う可能性も高いのです。もう一つは、壁をよく観察して弱点や迂回路がないか、壁の向こう側から手を差し伸べてくれる人はいないかを見きわめます。そしてスルっと壁の向こう側に出る。私はそうしたソフトアタックを好みます。私がトランスジェンダーでありながら、日本で最初に大学の教壇に立てたのも、現在、研究活動を続けられるのも、そうした方法が良かったからかもしれません。
 もう一言付け加えるならば、トランスジェンダーが社会的困難に立ち向かう時に、武器になるのは、知性と技術(スキル)です。これを磨くことがとても大事です。そしてMTFの場合は、それに加えて美しい容姿も大きな武器になりますから、これを磨くことも忘れないでください。私の場合はもうだいぶ衰えてしまいましたが。(会場 笑)