【第04回】 男性といっしょに遊ぼう!

2002. 08

ネオン街の夜風が肌に心地よい季節になってきました。皆さん、女装ライフを楽しんでますか?
今回は、男性とのお付き合いのノウハウをお話しましょう。
 
女装して夜の新宿で遊んでいれば、当たり前のことですけど、男性と出会います。女装スナックに行けば、男性客と隣り合わせになりますし、靖国通りや新宿通り(大阪だったら新御堂筋や阪急東通り商店街)を歩いていれば、通りすがりの男性の視線が貴女に向けられているのに気づくはずです。
 
スナックで、せっかく隣に「女の子」が座ったのに無視する男性はいないでしょう。きっと貴女に話しかけてきます。路上で出会った男性も「どこ行くの?」とか「時間ある?」とか、軽くナンパをかけてくるかもしれません。
 
「そんな時はどうすればいいんですか?」って聞かれたら、あたしとしては「普通に『女』として応対すればいいのよ」と答えて済ませたいところ。だけど、それじゃあ、「女装世界のニューフェースのためにお姐さんんからアドバイスを」というこの連載シリーズの趣旨に背くことになるから、もう少し親切にお話しましょうね。
 
☆ 女装スナックで(初級編)
男性とのお付き合いのノウハウの前に、そもそも女装スナックとはどんな場所なのかをお話しないといけません。現在、新宿歌舞伎町区役所通りから3丁目要ゴールデン街地区を経て、
新宿通り一帯、さらには新宿2丁目にかけて散在する10軒ほどの女装スナックの歴史は、一九六七年に新宿花園五番街(ゴールデン街地区)に開店 した「ふき」(加茂梢ママ。一九六九年に「梢」と改称)に始まります。この店は、プロの女装従業員が男性客を接客するゲイバーと異なり、アマチュアの女装者が客あるいは臨時従業員(ホステス)として女装者愛好の男性客と空間を共にするという新しい営業スタイルをとりました。つまり、女装者愛好男性と女装者の「男女の出会いの場」としての機能を店に持たせたのです。
 
この伝統は現在まで受け継がれ、女装スナックは、女装客と女装者を好む男性客が出会い、いっしょにお酒を飲み、仲良く語らう場なのです。そこでは女装客と男性客、
どちらが主でも従でもありません。両者はあくまで対等な関係なのです。女装客が男性客を無視して我が物顔に振る舞うのも、男性客が威張って女装客が卑屈になるのも、本来の姿ではないのです。また、男性との接触を嫌う女装者には向いていない場所ですし、まして女性(純女)と出会いたいと希望する女装者の意向に添える場所でもありません。
 
さて、女装スナックに来る男性客とは、どんな人たちなのでしょうか。わざわざ女装者がいる店に来るのですから、女装者と接するのが好きな男性が多いのはもちろんです。しかし、彼らのほとんどは「女好き」、つまりヘテロセクシュアル(異性愛)な意識を持っています。「男好き」=ホモセクシュアル(男性同性愛)ではないのです。
  
言い方を換えるならば、彼らは女装者を「女」として見立て、男と「女」の関係で接したいのです。もちろん、女装者の側は、自分を「女」として見て欲しい、「女」として扱って欲しいわけですから、そこに男である男

お馴染みの男性客と
(新宿歌舞伎町「ジュネ」で)

性客と「女」である女装客の疑似的な「男と女」の関係が成立するのです。女装スナックという場の大きな特徴は、女装客と男性客がお互いに「疑似ヘテロセクシュアル意識」を共有し、それを軸に接していることにあるのです。その点が「男と男」の関係、ホモセクシュアルな意識を共有している新宿2丁目のゲイコミュニティと明確に異なる点なのです。
 
解かりにくいですか? それじゃあ、もう少し即物的な言い方しましょうか。この世界
では指折りのベテラン男性客が、昔、あたしにを教えてくれた言葉を紹介しましょう。「いいか、順子。俺は『女好き』なんだよ。だから、お前たち(女装者)を『女装した男』だとは思ってないんだ。『ペニスのある女』だと思って可愛がってるんだ」
 
身体的には男性である女装者を「ペニスのある女」と思うのは一種の幻想です。しかし、この幻想こそが、女装スナックの世界を成り立たせている根本なのです。生身の身体(性器)を基準にするのではなく、身体にまとった女性性(ジェンダー)を重視し、「女装者は『女』」という設定をお互いが大事にする世界、女装スナックの世界はきわめて「文化的」なのです。
 
ですから、この幻想を壊すような言動はルール違反になります。例えば女装者に対して「お前達は、所詮男なんだから」と言ったり、逆に女装者が男性の前で男丸出しの振る舞いをしたりするのは、この世界の基本を理解していない「野暮」そのものということになります。逆に、「女」と男という共同幻想を上手に演じることができる女装者や男性客は、この世界の優れた構成員ということになります。女装者はあくまでも「女」として振る

自分を上手に演出することも大事です。
(新宿歌舞伎町「ミスティ」で)

舞い、男性客はあくまでも女装者を「女」として扱う、これが女装スナックという場での「粋」というものなのです。
 
ここまでお話すれば、貴女が男性客の前でどう振る舞えばいいか、解るでしょう。男性から話かけられても、あくまでも「女」として振る舞い、「女」として接すればいいのです。どんな「女」を演じるかは、貴女がそう在りたい「女」で良いのです。
おとなしく従順そうな女でも、少し気だるいセクシーな女でも、明るく元気な女でも、それは貴女の好み次第です。話題は、貴女の男性としての社会的立場にかかわる話題や家族の話はプラーバシー保持の点からも避けた方が賢明でしょう。むしろ、自分のことをしゃべるより、相手の男性にしゃべらせる聞き上手になった方が、お酒の席での女の有り様としては、賢明だと思います。
 
声もあまり気にすることはありません。自分の声域の比較的高い部分で話すようにすればいいのです。無理な裏声はかえって耳障りなものです。話方も、ゲイタウンの公用語である「オネエ言葉」(過剰に女性的な言葉遣い)は、女装の世界では使いません。一般の女性が話してるような少し丁寧な言葉遣いが一番耳にやさしく聞こえます。
 
話してみて「この男性、苦手」と思った時は、何も無理に不愉快な思いをしてまで付き合う必要はありません。そんな時は、トイレに立つタイミングを利用してさりげなく席をチェンジしてしまいます。店のスタッフに小

お店の外で遊べるようになれば、もう一人前。
(屋形舟で。隣の男性は性科学の世界的権威、ハワイ大学のミルトン・ダイヤモンド教授)

声で「ちょっと苦手なの」とささやけば、後はフォローしてくれるはずです。
 
ここで、女装スナックにおけるNG男を挙げてみましょう。
(1) 男と男の関係を求めてくる男性客。これは完全な場違い、さっさと2丁目のゲイタウンに行ってもらいましょう。
(2) 純女にモテなくて、代用品(女装者)なら相手にしてくれると思ってる男性客。これは完全な勘違い、純女にモテない男は、やっぱり「女」にもモテません。かわいそうだけど。
(3) 他の女装者の話をする男性客。失礼ですし、次は貴女が話のネタにされます。まして「俺、〇子と寝たんだ」なんて自慢げにしゃべる男って最低!。
(4) 力ずくで強引に触ってくる男性客。野暮の骨頂、相手するだけ馬鹿らしいから、さっさと逃げましょう。
(5) やたらと性的関係を求める男性客。「ホテル行こう」しか言わない男。「フーゾクに行けばぁ」。特に、来店してそう時間も経っていないのに、女装者を店から連れ出そうとする男は要注意です。
逆に好ましい男性と思ったら、カラオケで歌合戦したり、デュエットしたり、誰かの歌に合わせてダンスするなり、いっしょに仲良く夜を楽しみましょう。ただし、あまり飲み
過ぎないようにね。「女」の泥酔はみっともないですよ。
 
 
☆店外デート(中級編)
女装スナックの世界は狭いですから、通ってる内に同じ男性客と何度も顔を合わせることがあります。気が合う男性客に偶然出会えば、女装者の顔も自然とほころびますし、お気に入りの女装娘の笑顔を見れば男性客もうれしいのは言うまでもあり
ません。楽しい会話の末に「もう1軒、行かないか?」と誘われることもあります。もちろん、誘いに乗るかどうかは、貴女の判断ですけど、もし一緒に出掛ける時は、貴女が店の会員なら「〇〇さんと出掛けてきます」とママやスタッフに一言告げるのを忘れずに。
 
男性客が女装者を誘うのは、たいがいは同種の女装スナックです。男性客にはそれぞれホームグラウンド的な店がありますし、自分のお気に入りの娘を見せびらかしたい心理もあるからです。たとえ女装スナックとスナックの間の短い道程でも、初めて男性にエスコートされて歩いた時のうれしさと緊張感が入り交じった気分は、忘れられないものです。
 
連れていかれた先のスナックのお勘定は、誘った男性客が払うのが当然のマナー。また、遊んだ後、元の店に送ってくれる心遣いのある男性なら高得点です。逆に、外出慣れしてない女装初心者を外に連れ出しておきながら、深夜の街に一人で放り出すような男だったら、次回は付き合わない方が賢明です。
 
彼が連れて行ってくれたのが、他の女装スナックではなく、一般のバーや居酒屋だっ

お店は、男と「女」が楽しく遊ぶ場所
(新宿歌舞伎町「ジュネ」で)

たり、お寿司屋だったりしたら、貴女はもう女装者として一人前と判定されたと思っていいでしょう。男性が女装娘を一般の世界に伴うことは、けっこう勇気が必要なことですから、彼は貴女を通常の世の中に出しても恥ずかしくない「女」と考えている証拠です。だから自信を持って、どんな場でも臆することなく堂々と「女」として振る舞えばよいのです。
 
さて、お寿司屋を出た後、彼の足がラブ・ホテル街の方に向かい、言葉でも誘いをかけられました。さあ、貴女はどうしましょう?
 
あっ、もう紙幅がない。その話は、また次回に
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