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(2000/09)

[ 2000年9月29日(第2講) ]
今日は、取材もなく通常パターンなので、12時40分頃、ゆっくり家を出ました。途中の車窓からは、すすきの穂波が揺れているのが見えて、秋の訪れを感じさせられました。

講義開始の50分前に3号館6Fの研究室に到着。ちなみに今日のファッションは、レモンイエローの半袖セーターに黒のタイトスカート(膝上10cm)、Y子姉さまにいただいた黒地に緑・青・紫の大きな水玉が浮かんだオーガンジーのブラウス・ジャケットです。
一息入れて、3Fの講師控室で配布プリントを印刷して後、研究室に戻って、買ってきた「おにぎり弁当」を食べてスタンバイ完了。

受講生はほぼ前回並み(120名程度)。2枚のレジュメに加えて、取材協力の御礼の意味で『FLASH』の記事のコピーも配布し、マスコミ利用の大切さをしゃべりました。
続いて、前回の「性社会学への招待」の残り部分を話をしましたが、基本イメージや用語の解説に手間取り、時間をかなり費やしてしまいました。なにしろ「赤線/青線」と言っても今の学生にはまったく時のかなたの話ですから、1958年の売春防止法施行の話とか、赤と青が真ん中で背中合わせにくっついている色鉛筆の存在とかから語らないとイメージ化できないのです。

やっと、今日の第2講「『性』の4要素(1)−身体的性と社会的性−」に入れたのは、残り時間が30分程になった頃でした。
まず「『性』の4要素」として次の4つがあることを説明しました。
@ 身体の性  セックス (Sex)
A 心の性(性自認) ジェンダー・アイデンティティ(Gender Identity)
B 社会的性(性役割/性別表現)ジェンダー・ロール/ジェンダー・パターン(Gender Role/Gender Patern)
C 対象の性(性的指向性)セクシャル・オリエンテーション(Sexual Orientation)

そして、最初に「身体の性」について、発生学的な知識を踏まえて解説しました。一口に身体の性と言っても遺伝子(SRY)の性、染色体の性、性腺の性、ホルモンの性、内性器の性、外性器の性、さらには脳の性や第二次性徴の性など様々なレベルがあること。また、男女を明確に二分できないことは、インターセックスの存在などからも明らかであり、生物学的性の実態は男性と女性を両極とした連続体で、その両極に多数の人が集中していると考えるべきであることを話しました。
そして、人の身体的性は女性型が基本であり、SRY遺伝子が存在する場合のみ、精巣の形成→アンドロゲンの分泌→内・外性器の男性化→脳の男性化というプロセスで男性への分化が進行する(イブ原理 )こと。その分化の過程は受精から出産までの胎児期に女性である母親の胎内で行われ、極めて複雑で微妙なプログラムにしたがって進行すること。具体的には、男性への分化は、SRY遺伝子によって精巣が形成された後、胎児期の適切な時期に適切な量のアンドロゲンが作用することによってなされるので、そのプロセスに何らかの狂いが生じた場合は、男性への分化が不十分になり、男性身体的性(脳の性を含む)の形成に様々な支障が生じることなどを話しました。

人間は発生学的にイブ(女性)からアダム(男性)が作られるのであって、キリスト教の神話のようにアダムからイブが作られたとするのは間違いです、と語った時、受講生の一部がざわめいたように感じられました(声からして男子学生?)。

性別二元論の幻想を打ち破るためにも、インターセックスの話を少し詳しく話するつもりだったのですけども、今回はできませんでした。また肝心の社会的性についても次回に持ち越しです。なかなか思うようなペースで進みませんけど、まあ、焦っても仕方がないので、受講生の理解を最優先にゆっくり話していこうと思ってます。


2000/09/22(Fri)

[ 2000年9月22日(中央大学での初講義) ]
今日、中央大学での初講義、なんとか無事に終えてきました。
初講義の緊張感の上に、3社も入ってくれたマスコミ取材の対応が重なり、講義が終った時には、疲労困ぱい状態でした。

ちなみに、初講義のファッションは、黒のタンクトップに黒のタイトスカート(膝上10cm)、ベージュのストッキング、黒のパンプス、黒の縁取りラインの入った黄色のジャケット(半袖)です。秋物を準備していたのに思いがけず気温が高かったので、あわてて昔の衣装を引っ張り出して、結局、順子のイメージ・カラーである黄色と黒でまとめました。

私が担当する「現代社会研究5]は文学部社会学科の専門科目ですが、教職講座の講義を兼ねているため、他学科の学生を含めて149名の履修登録で、当日は130人くらいの出席でした。それに大学院生や非公式聴講の方(ありがとうございました)が若干名加わるという感じです。

教壇に立って最初にマスコミ取材が入っている事を受講生に説明して了解を求めた直後から、各社の3人のカメラマンが競うように私の講義姿を撮りはじめ、大学の講義としては極めて異例の状況での初講義となり、受講生はさぞびっくりしたことでしょう。まあ、マスコミがどのような社会事象を取り上げ、どのように取材が行われ、それがどのように記事としてイメージ化されて、世の中に流布されるかという過程を生で見られた訳ですから、社会学の良いケース・スタディとして受け止めてもらえればいいと思います。

肝心の講義の内容ですけど、総合テーマは「『性』を考える」、初回は「ガイダンス・性社会学への招待」と題して、最初に「性」を考えることの意味を、@「生」と「性」の不可分性、A「性」を内省することの必要性、B性別二分社会の仕組みを知る必要性、C女性と性的マイノリティの役割、Dマジョリティ男性をも含めて「性」を考える事の普遍性と今日性、という流れで、できるだけわかり易く語りました。

次に、日本の性社会学の展開過程をごくかいつまんで話をしました。1970年代のフェミニズム思想の台頭と、生物学的性別と社会文化的性別の分化(性差の相対化)、1980年代の女性による女性を対象とした女性のための「女性学」の出現、1990年代前半のジェンダー論とセクシュアリティ論の分化、男性学(メンズリブ)の提唱、そしてマイナー・セクシュアリティのフロントランナーたちの登場、さらに1990年代後半のアカーの活動によるゲイ・スタディーズの成立、そしてクィア・スタディーズの登場、という流れをごく素描的に話しました。

第三に、日本の性社会学の課題として、そもそも性を研究テーマに取り上げることを、日本の学会(社会学・民俗学・歴史学など)が長らくタブー視してきて、現在でもその傾向が根強く残っていることが根本的な問題であることを話した上で、具体的に4つの点を指摘しました。
(1)近代社会の「性」に関わる社会現象の歴史的分析の不足。とりわけ実態的な性社会史研究の決定的な不足。
(2)ヘテロ・セクシュアルの男性・女性の「性」意識・行動に関する研究不足。とりわけ、ヘテロ男性の研究対象からの疎外、研究領域の未確立。
(3)マイナー・セクシュアリティ領域の研究不足。具体的にはレズビアン・スタディーズの不足、バイ・セクシュアルの分析不足、トランスジェンダー・スタディーズの未確立。
(4)ジェンダー・セクシュアリティを総合した「性」の構造論の不足

ただし、(1)を説明したところで時間切れになってしまい、(2)以降は次回に持ち越すことになってしまいました。

(1)についてはさらに具体的に研究が少ない分野を例を挙げました。
@近代の「買売春」(遊郭、赤線/青線、街娼など)の調査研究。
A近代の「水商売」「風俗産業」(待合い、カフェ、キャバレーなど)の調査研究。
B現代の「水商売」「風俗産業」の調査研究。
Cゲイ、レズビアン、女装などのコミュニティの調査研究。

まあ、私ひとりでは絶対にできないテーマばかりで「大風呂敷」と言われればそれまでですけど、こういう視点で性社会学の課題を提示した人はあまりいないのではないでしょうか。それぞれのポイントで参考文献(51点)を掲げましたので、「大風呂敷」が、受講生の興味とやる気を刺激して、一人でも「性社会学」に取り組んでくれたらうれしいです。

受講生の皆さんが、思っていたよりずっとまじめに聞いてくれたのが、なによりうれしかったし、安心しました。

初講義の様子は、26日(火)発売の『FLASH』、10月2日(月)発売の『サンデー毎日』、それに12月中旬発売の『ニューハーフ倶楽部』に紹介される予定です。

なお、翌日、受講生からこんなメールが届きました。

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はじめまして。
三橋先生の講義を聴いた生徒のひとりです。
カメラマンの人が来ていたりして、何だ何だ、と初めは思っていたのですが、先生のお話にくぎづけになってしまいました。大好きな授業になることまちがいなしです。

先生、なんだかステキですね。木曜日が待ち遠しい!がんばってノートとります!!
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なによりもうれしく今までの苦労が報われた思いでした。

2000/09/22(Fri)